リスクマネジメント

災害は、人がいるから起きる!?

例えば、深い山の登山道で、めったに人が歩かないところ。そこが大雨で崩れてしまった時のことを考えてみましょう。

そこに人がいなければ、多くの人は気にも留めないし、そもそも崩れたこと自体に気づかないかもしれません。でも、登山者が巻き込まれたらどうなるか?

人が、ある自然現象を災害と認識するかしないかの大きな違いは、人あるいは人が利用する財物が被害を受けたかどうか、その可能性があるかないかの違いです。

だからある意味で、災害から身を守ることができるのは、人の力によるしかありません。

このことは、あらゆる危機に関して言えることだと、私は思います。つまり、危機から逃れる、あるいは防ぎ、万が一危機に遭遇したときには被害を最小限に止め、そこからの復旧を早めるのは、人の能動的な働きによるしかないのです。

リスクマネジメントを考えるとき、このことを忘れてはならないのです。

リスクとは何?

「リスクとは、できれば起きてほしくない現象が起きてしまう確率と、起きたときの被害の程度の積」と定義しておきます。

(リスク=確率×程度)

一般的に使われる「リスク」という言葉は、様々な意味を持っています。

地震、津波、隕石落下といった自然現象や、倒産、遭難、病気、事故、死亡のように人や事業に起きる出来事をさす場合もあります。共通しているのは、「できれば起きてほしくない」という気持ちが背景にあるということでしょうか。

「できれば起きてほしくはない」のだけれども、必ず起きる。それは、今起きるかもしれないし、私たちの人生で1回くらいは起きてしまうかもしれないし、何百年に一度の割合かもしれませんが、絶対に起きるのです。

ただそれは、起きる確率が高いか低いかの違いと、発生した場合の被害の程度の違いがあるということです。

リスクマネジメントを考える際に、冒頭にあげたリスクの定義のイメージは重要だと思います。それは、次の2点にあります。

  1. リスクは0にはならない。
  2. すべてのリスクに事前に対応・予防することはできない。

1の「リスクは0にはならない」ということは、これまでの説明でも理解していただけるのではないかと思います。まず、確率が0としてはいけません。(この点については、後述の「注意」もご覧ください。)また、好ましくないことが起きるのですから、必ず被害はあります。たとえそれが、無視できるくらい小さな被害だとしても(ちょっと指先から血がにじんだ程度だとしても)、被害であることに変わりはありません。つまり、確率も程度も0ではないわけですから、その積(掛け算の答え)であるリスクは0ではありません。

このことは、地区防災計画やリスクマネジメントを行う際の、あるいはBCPの策定における重要な過程である「リスク分析」で、まず「すべてのリスクを洗い出す」必要性につながります。

けれども「リスクは0にはならないから、必ず予防策をとらなければならない」ということにもなりません。というより、不可能です。なぜなら、時間と労力と経済力が有限だからです。

だから、「どのリスクに、どれだけの時間、労力、金銭をかけて対応するか」ということを、それぞれの個人や地区・団体・事業所・企業が選択し、実行しなければならないのです。これをリスクマネジメントと言います。

言い換えると、リスクマネジメントとは行動のサイクルです。

  1. リスク分析
  2. リスクへの対応計画立案
  3. 計画に沿った対応訓練
  4. 訓練結果を分析した、計画の評価
  5. 計画の見直し
  6. 見直した計画に沿った対応訓練

というサイクル。このサイクルは毎年実施されるはずです。そして、2~3年おきに、リスク分析のやり直しをする。なぜなら、リスクは環境や人と共に変化するからです。

リスクマネジメントとは、こうしたサイクルを惰性にすることなく、意識的に回すことです。

そして、このサイクルの過程にリスクコミュニケーションを組み入れていく必要があります。

リスクコミュニケーションは、とても大事だと思うので、別のページで説明したいと思います。

注意・・・確率を0にしてはならない理由

宮城県の川崎町は、蔵王や秋保温泉に近い、山間にあります。この土地で「津波に飲み込まれる確率」は0でしょう。

では、「津波の影響を受ける確率」はいかがでしょうか?あるいは会社のリスクマネジメントを考える際に、「沿岸部に営業に行った社員が津波に襲われる可能性」は?

山間部にあっても、海産物や港に陸揚げされた輸入品に直接・間接的にかかわらざるを得ないのが、現代の生活や事業です。ですから、家が学校が会社の建物が津波によって破壊されることはないとしても、少なからずその影響を被ります。つまり、被害があります。それは沿岸部の人たちのように、悲劇的・壊滅的なものではないにしろ、必ずあります。

「山間部にあるから津波リスクは0」としてしまうと、そうした間接的な(事業によってはかなり深刻な)被害を想定を見逃してしまうのではないか。それは問題だと、私は思います。

「津波?当社は山の中にあるから、そのリスクはないでしょう?」「でも、津波で漁業ができなくなったら、うちの製品を利用している網も売れなくなりますよ。それって、マズいんじゃないですか?」「それもそうだ。では今のうちから漁業者が速やかに復旧できるような対応を漁協さんと協議したり、売上げ減になっても耐えられるように、何か対策を考えておこう」

リスク分析の成否は、想像力と現実をありのままに見る力の両方を自由に発揮できるかどうかによるのだと思います。そのためにも「リスクは0にはならない」という考えが、非常に重要な意味を持つのです。

<参考にした主な文献>

  • 「最新 リスクマネジメントがよ~くわかる本【第2版】」東京海上日動リスクコンサルティング株式会社著 (秀和システム)
  • 「防災ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション~クロスロードへの招待~」矢守克也・吉川肇子・網代剛著(ナカニシヤ出版)
  • 「リスクコミュニケーション」西澤真理子著(エネルギーフォーラム新書)
  • 「事業継続ガイドライン~あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応~平成25年8月改定版」内閣府防災担当
  • 「みやぎ企業BCP策定ガイドライン(平成26年3月版)」宮城県