相続した土地を国に引き取ってもらう方法~相続土地国庫帰属制度

 令和5年4月27日からスタートする、相続土地国庫帰属制度について簡単に御紹介します。

 この制度は、相続したけど利用しない土地を国に引き取ってもらう制度です。

 土地であれば、宅地、田畑、森林などの種類は問いません。

 例えば、御実家の御両親が農家で家で食べる分を収穫するだけだったの田や畑を相続した場合。相続人中にこの田畑を相続したい人はなく、近隣に買ってくれる方も、生産委託を引き受けてくれる方もいない。そうした場合に、この制度が選択肢の一つになります。

 ただ、国は無条件で引き受けてくれるわけではありません。

 以下、重要なポイントに絞って御紹介します。

※このページは令和5年2月20日時点で、当事務所が把握している情報に基づいて記しています。随時更新していくことがあることを御了承ください。

なお、私の誤解等がある場合には、メール等で御指摘していただけるとありがたいです。

1 申請できる人

 国に土地を引取ってもらうよう申請できるのは、次の条件に当てはまる人だけです。

相続または遺贈によって、その土地の所有権または共有持分を取得した人

 申請は相続発生後の土地の所有者全員の意思で行います。

 したがって、相続によって所有者が1人だけになった場合にはその方が申請人になります。

 一方、相続によって所有者が複数人になった時には、その全員による共同申請が必要です。そのため、1人でも反対する方がいれば、この申請はできません。

 その他、注意が必要なことについて2点補足説明をします。

相続または遺贈

 「 土地X は A に相続させる 」とか「 土地Y は B に遺贈する 」という記載のある遺言書がある場合は、この「相続または遺贈」によって取得するという条件に当てはまります。

 ただし、「遺贈」の場合には、相続人への遺贈に限定されています。

 遺言書が無いため遺産分割協議をした時には、協議の結果、土地を取得した人が申請人になれます。

 遺言書が無く、遺産分割協議もしていない状態ならば、法定相続人全員で共同申請をします。

 また、もし法定相続人の中に行方の分からない方がいる場合には、令和5年4月1日から施行される民法改正法を利用し、裁判所に共有持分の譲渡等の申立をすることが考えられます。

共有持分

 例えば、御夫婦お二人の名義の土地があった場合、この土地は「夫婦で共有している」ことになります。御夫婦が半分ずつ所有しているのであれば、共有持分は2分の1ずつになります。

 長い年月の中で、共有であったかどうかが曖昧になっている方が結構おられます。

 土地の持分や所有者が分からない場合には、法務局で登記簿謄本を取得するか、登記情報提供サービス (touki.or.jp)でオンラインで登記情報を取得することができます(ただし、有料です)。

 もちろん、行政書士や司法書士に依頼して調べてもらうことも可能です。

2 土地の条件

 国は土地であれば何でも引き取ってくれるわけではありません。

以下の(1)(2)に記すのは、

国が引き取らない土地の代表例です。

 詳しくは、下の「詳細」から法務省のサイトを御覧ください。

(1) そもそも申請できない土地

 次に記すのは、申請時点で即「却下」になる土地です。

  • 建物のある土地
  • 抵当権や賃借権、地上権などの権利が設定されている土地
  • 道路として利用されている土地
  • お寺や神社の敷地。あるいは墓地。
  • 水道用地やため池などに利用されている土地
  • 有害物質に汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地
  • その他、争いがある土地

(2) 審査の結果、国が引き取らない土地

 審査の結果、不承認になる土地。ただし、場合によっては引き取ってもらえる可能性もあります。

  • 崖がある土地で、管理に費用や労力がかかるもの。
  • 工作物や放置自動車、伐採が必要だったり頻繁に剪定しなければならない樹木などがある土地。
  • 古井戸など除去しなければならないような物が地下にある土地。
  • 他の土地に囲まれて公道に通じないような土地
  • 池や水路などを通らなければ公道に出られない土地
  • 公道と土地の間に著しい高低差がある土地
  • 所有権に基づく使用や収益が妨害されている土地
  • 災害の危険により、土地や周囲の人、財産に被害を生じさせる恐れがあるため、何らかの措置が必要になる土地
  • 土地に生息する動物等により、土地や周囲の人、農産物、樹木等に被害を生じさせる土地
  • 土地改良事業等により水利施設の建設費用や管理費などの賦課金のある土地

(3) 国が引き取ってくれる土地の3つの条件

 上記の(1)(2)から既にお分かりかと思いますが、大雑把に言って国が引き取ってくれるのは次の3つの条件をすべて満たした場合です。

① 相続により取得した土地

② 他に何らかの権利を持つ人や権利を主張する人のない更地

③ 数年管理するにしても大した手間のかからない土地

<①の補足説明>

「相続した土地」には遺産分割の他、遺言で取得する場合も含みます。

また、取得した人全員が相続した土地である必要はありません。

どういうことかというと、例えば次のようなケースです。

死亡した夫の遺産に、夫婦の共有名義になっていた土地があり、夫の持分を子供が相続した。

 上のケースでは妻はこの土地を相続で取得してはいません。でも、子供は相続で取得しています。

 もしこの土地が不要ならば、妻と子供が共同で申請すれば良いのです。

3 必要書類

 申請に必要な書類は大きく分けて、「必ず必要な書類」と、「ケースによって必要になる書類」の2種類に分けられます。

 もし、申請の前に法務局と相談する時には、「必ず必要になる書類」を可能な範囲で準備して持参した方が良いでしょう。

(1) 必ず必要な書類

次の①~⑥は申請時に必ず必要になる書類です。

① 承認申請書

 申請書には、相続人1名だけで申請する場合の「単独申請」用と、相続人を含む数名が共同して申請する場合の「共同申請」用の2種類の様式があります。

 様式は下の「詳細」から法務省のサイトからダウンロードできます。

 なお、申請書には手数料として印紙を貼付します。

② 土地の位置や範囲を明らかにする図面

 簡単に言えば、引き取ってもらいたい土地の場所や形が分かる地図です。

 ただし、縮尺は2500分の1以上と指定されています。

 この地図に下の③の写真と対応した番号を記入します。

 後日、担当の方が現地調査を行います。

③ 土地及び申請する土地に隣接する土地との境界点を明らかにする写真

 土地そのものに境界を示す境界標、ポールやプレートなど設置し、それを写真に納めます。

 もちろん、ポールやプレートなどは隣地の所有者と合意した場所にあるものです。ですから、この申請のためにポール等を設置する場合には隣地所有者に立ち会ってもらった方が良いでしょう。

 なお、境界標については、こちらのWebサイトが参考になります。

知って得する境界標の知識 | 札幌土地家屋調査士会 » 土地の境界・測量 (saccho.com)

 土地の境界の事でお困りの場合には土地家屋調査士に御相談ください。こちらのWebサイトでお近くの土地家屋調査士を検索できます。

日本土地家屋調査士会連合会 (chosashi.or.jp)

④ 土地の形状を明らかにする写真

 土地が「国が引き取らない例」に当てはまらないことを証明するための写真です。

 土地全体の形が分かる遠景の写真と、土地の状態や土地にある物が分かる近景の写真の2種類を提出します。

 土地が広い場合には航空写真などを利用しても良いようです。

 なお、地図や航空写真(空中写真)は国土地理院のWebサイトが参考になります。

⑤ 申請者全員の印鑑証明書

 申請者全員の印鑑証明書を添付します。

 申請者の中に法人が含まれている場合には、法務局に登録している法人代表者印を申請書に押印し、その印鑑証明を添付します。なお、法人番号がある時には法人番号も申請書に記載すれば法人の印鑑証明書は省略可能です。

⑥ 相続等によって取得したことが分かる書面

 この申請の対象になる土地について「相続させる」または「遺贈する」と書かれた遺言書がある場合と、そうした遺言書が無い場合について分けて紹介します。

A 遺言によって取得した場合

  1. 遺言書
  2. 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等
  3. 相続した方の戸籍抄本
  4. 相続した方の住民票又は戸籍の附票

 なお、2・3に替えて法定相続情報一覧図の写しでもOKかと思います。念のため法務局に御確認下さい。

B 遺言書がない相続の場合

  1. 遺産分割協議書
  2. 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)等
  3. 相続した方の戸籍抄本
  4. 相続した方の住民票又は戸籍の附票
  5. 遺産分割協議書に押印した方全員の印鑑証明書

 なお、2・3に替えて法定相続情報一覧図の写しでもOKかと思います。念のため法務局に御確認下さい。

 また、遺産分割協議前に申請する場合には、もちろん、遺産分割協議書を添付することはありません。法定相続人全員の戸籍抄本や住民票等は必要になると思います。

★ 法定相続人の中で、相続放棄をした方がいらっしゃる場合には、相続放棄申述受理証明書等の添付が必要になるかもしれません。詳しくは法務局に御確認下さい。

(2) ケースによって必要になる書類

① 固定資産税評価証明書

 この書類は任意提出となっています。

 土地の現況を確認する資料です。例えば、登記簿上は田となっているのに、現況は荒地になっていることがあります。

 土地の種別は、後で納付することになる負担金の計算にも影響しますので、現況と登記簿謄本上の地目が異なる場合には添付した方が良いと思います。

② 土地の境界等に関する資料

 土地の境界を表す写真や図について、「必ず提出する書類」だけでは説明不足になる場合の補充資料です。

 例えば地積測量図。昭和52年以降に作られた地積測量図には境界標の位置が記載されています。

③ 現地案内図

 例えば森林の一部の土地のように、現地に到達することが初めて行く人には難しい所にある場合には、現地までの案内図を添付します。場合によっては現地までの道案内を申請人か申請人が指定した者に依頼することもあり得るようです。

④ その他

 申請者が「申請を受け付けた」ことを証明する書類が欲しい場合や、添付書類の原本還付を依頼する場合には切手を貼った返信用封筒を提出します。

 その他に、事前相談の折に担当者から提出を求められた書類があるかもしれません。

4 専門職の役割

 この手続きの申請は、本人か法定代理人だけが行えます。

 では、自分で手続きをすることが難しい時には、どうすればよいのか?

 書類の作成は次の専門職に依頼できます。

行政書士、司法書士、弁護士

 ただし代行できるのは書類の作成だけです。

 また、出来上がった申請書は、本人が法務局に出向くか、郵送で提出します。

 法務局に出向く場合には、家族などが本人のお使いとして提出できます。

※本人以外の方が出向くときは、あくまでも「お使い」なので軽微な訂正もその場ではできません。

5 費用と料金

申請に当たって、次の表にあるような2種類の費用を国に納めることを、あらかじめ理解しておきましょう。

項目説明
手数料申請にあたって、審査手数料を法務局に支払います。
支払は収入印紙を申請書に貼る方法です。
★手数料を納付後は、申請を取り下げたり、審査の結果が却下や不承認となった場合でも返金されません。
★令和5年2月段階では、手数料の額は公表されていません。
負担金土地の標準的な10年分の管理費用として法令で定められた金額を、納めます
算出方法は、宅地・田畑・森林・その他の種類ごとに、土地の面積に応じて変わります。
ただ、少なくとも20万円はかかるようです。
負担金を納めるのは、申請後の審査の結果、国庫に帰属することが決まった後に通知が届いてからです。
負担金は、銀行や信用金庫、信用組合、ゆうちょ銀行、農協や漁協などを通して日本銀行に納付することになります。
負担金の計算方法についての詳細は ⇒ 法務省:相続土地国庫帰属制度の負担金 (moj.go.jp)

★当事務所の料金

当事務所に申請書類の作成を御依頼の場合には、次の表のように計算して御請求いたします。

項目計算式
報酬7万円~
※遺産分割協議書作成も御依頼の場合には、別途、御請求いたします。
出張料相談時、現地確認などの場合です。
半日出張 ⇒ 7,000円
1日(日帰り) ⇒ 14,000円
宿泊を伴う場合 ⇒ 1日半の時には20,000円
★最低1回は現地確認をする予定です。
交通費・自家用車を利用する場合は、ガソリン代+有料道路利用料
・鉄道利用の場合は、指定席利用の実費
・その他、レンタカー又はタクシーを利用する場合等、実費
宿泊費1泊1万円
お支払いいただく金額報酬 + 出張料 + 交通費 + 宿泊費 の合計金額をお支払い頂きます。
なお、御契約時に着手金として2万円~をお支払い頂きます。この金額は現地確認の出張料、交通費や宿泊費等を概算した額を予定しています。
業務終了後に、着手金を除いた残額を御請求いたします。

※上の表は令和5年2月20日現在の料金表です。事情により金額を変更する場合には、御契約前に説明いたします。

6 詳細は・・・

相続土地国庫帰属制度をさらに詳しくお知りになりたい方は、こちらを御覧ください。

 ⇒ 法務省:相続土地国庫帰属制度について (moj.go.jp)

なお、申請書等も上の法務省のWebサイトからダウンロードできます。