多くの人にとって生活必需品になっているスマートフォン。
高齢者でも利用する方が増えてきているように見受けられます。
スマートフォンが1台あれば、電話やメール、写真を撮るだけでなく、買い物で支払やポイントカード代わりにもなるし、わからないこともすぐに調べられるし、音楽を聴いたり動画を観ることもできます。
スマートフォンは大変便利な一方で、IDやパスワードを登録したりといった手間がかかったり、紛失してしまった時には多くの個人情報が流出してしまうのではないかという不安もあります。
スマートフォンに関わる様々な手続の中で、
最も厄介なのがスマートフォンの持ち主が亡くなった後の手続です。
ここまでスマートフォンについて書いてきましたが、死後の手続の厄介さはスマートフォンに限りません。
パソコンもスマートフォン同様の煩わしさがあります。
以下、デジタル遺産についての紹介です。
ただデジタルの世界は目まぐるしく変化します。
私も出来る限り新しい情報に更新していきますが、もしかすると、記述が追い付いていないかもしれませんのでその点は御了承ください。
Table of Contents
1 デジタル遺産って何?
デジタル遺産は、大きく分けて次の3つに分類できます。
- デジタル機器
- デジタルデータ
- オンライン・サービスの利用のアカウント・ID・パスワード
それぞれの具体例を通して、もう少しイメージをはっきりさせましょう。
(1) デジタル機器
もはや1人に1台のスマートフォンはもちろん、パソコンもあります。
でもそれだけではありません。デジタルカメラも立派なデジタル機器です。
デジタル技術を使った物には他にもテレビだとかエアコン、冷蔵庫などもあります。
「デジタル遺産として留意すべきデジタル機器」としては、私は「個人あるいは世帯の情報が保存されている(あるいは情報にアクセスできる)デジタル機器」と今は考えています。
この意味ではもしかすると将来は、車や家も「留意すべきデジタル遺産としてのデジタル機器」に含まれるかもしれません。
(2) デジタルデータ
例えばスマートフォンに保存されているデータを考えてみます。
写真、電話帳、メールアドレス、音楽などのデータが保存されているかと思います。これらは全てデジタル遺産です。
中には自宅の住所や個人番号(マイナンバー)をメモとして保存している方もおられます。
デジタル遺産として考えるデジタルデータは、スマートフォンやパソコンの中に保存されているものだけではありません。
外付けのハードディスクやSDカードやCD、USBに保存されているものもあるでしょう。若い方は御存知ないかもしれませんが、フロッピーディスク、MD、カセットテープ・ビデオテープというのもあります。
逆に今は、スマートフォンやパソコン内部には保存せずに、クラウドサービスを利用している方も大勢いらっしゃるでしょう(例えばGoogleドライブやiCloud)
これらの中に保存されているデータには、著作権や個人情報、不正競争防止法上保護されるべき営業の秘密に関わるものがあるかもしれません。
(3) オンライン・サービスのアカウント・ID・パスワード等
LINEやFacebook、Twitter、Instagram、YouTubeなどのSNS。
無料で利用出来て、いろんな人とつながって、趣味や仕事に利用したりTV番組感覚で楽しんだりしている方も多いかと思います。
こうしたSNSを利用するためには利用開始時に設定したアカウントにIDやパスワードを入力してログインします。
いちいちIDやパスワードを入力しなくても自動ログインできていると思います。しかし、例えば普段はスマホで利用しているSNSにパソコンで使おうと思ったら、IDやパスワードを入力することになるはずです。
正しくIDやパスワードを入力できれば、そのアカウントで投稿・利用してきた写真や文章などのデータを編集したり、削除したり利用制限したり、他の人と共有したりなどができます。
つまり、このアカウント・ID・パスワードというのは、SNSを利用するための重要な情報になります。
こうしたことは、SNSに限らず、インターネットで利用する預金口座や有価証券、ビットコインなどの暗号資産の取引にも言えることです。NetfrixやSpotifyのようなサブスクリプションも同様です。
アカウント・ID・パスワードは重要なデジタル遺産の1つです。
2 デジタル遺産の何が厄介か?
デジタル遺産あるいはデジタル遺品が、相続財産として又は死後の事務に関わる問題として注目を浴び始めたのは、私の印象ではここ数年のことではないでしょうか?
何年か前に、スマートフォンのキャリアを変更したのですが、それに伴う手続きが非常に面倒だったことを覚えています。
自分自身が契約したことについてそうなのですから、故人という他人の契約に関わる手続なら一層大変になることは想像できることでしょう。
実際、ある御遺族は「本当は個人の遺品をゆっくり整理しながら悲しさや寂しさと向き合いたいのに、スマートフォンやパソコン、インターネット関係の手続でそれもできない!他にもいろんな手続があるし、自分の仕事もあるのに・・・」と嘆いておられました。この故人は、長く1人暮らしをされていて、病気で突然亡くなられたのだそうです。
不動産や預貯金のような従来から知られている相続財産とデジタル遺産の違いは何か?
何がデジタル遺産を厄介なものにしているのか?
以下、私の考えを3つにまとめてお示しします。
それを知っておくことで、終活としてデジタル遺産に対してどのような準備をしておけば良いのか、見えてくると思います。
(1) 故人しか知らない
最初に挙げたいデジタル遺産の厄介な特徴は「亡くなった方だけが知っている」という点にあります。
例えばパソコン。
現在使用しているパソコンならば「書斎などの机の上にある」とわかるかもしれませんが、他のパソコンの存在はどうでしょうか?「以前使っていたお気に入りのパソコン」を保管していたりしていないでしょうか?
また、そのパソコンの画面のロックを解除するパスコード(あるいはPINコード)。故人以外に知っている人はいるでしょうか?
さらにそのパソコンで何をしていたのか?重要な書類は?利用しているオンラインサービスは?データはどこに保管?IDやパスワードは?
これらの全容を知っているのは、故人しかいません。
一方で、不動産はどうでしょうか?
たとえ家族が知らない故人名義の不動産があったとしても、固定資産税通知書等からその存在を知ることが可能です。あるいは金庫の中に権利証が保管されているかもしれません。
預貯金や有価証券にしても、故人が内緒で所有していた財産でも何とか調べる手段はあります。
手間暇はかかりますし、全て調べ尽くせないかもしれませんが・・・。
しかし、デジタル遺産については現在のところ「こうすれば調べられる」という定石のようなものは、あまりありません。
つまり、
(2) 個人情報の壁
私たちがインターネット上の様々なサービスを利用する時に、気になる事の1つは
「個人情報が他人に漏れないか?」
ということだと思います。
実際、個人情報が漏洩したニュースを耳にした時に「自分は大丈夫だろうか?」と心配になりますよね?
だからセキュリティーがしっかりしている会社のサービスだと安心して利用できます。
例えば、iPhoneなどでおなじみのアップル社は、アメリカのFBIの求めであっても顧客の情報は断固として守ったことで、評価されたこともありました。
ただ、この平時の安心が死後のデジタル遺産の処分の時には大きな壁になります。
特にスマートフォンのロック解除は、パスコードを知らなければほぼ不可能です。
例えばアップル社の場合(関連サイト)
アップル社の対応等については、以下のサイトを御覧ください。
亡くなったご家族の Apple アカウントへのアクセスを申請する方法 – Apple サポート (日本)
iPhone、iPad、iPod touch のアクティベーションロック – Apple サポート (日本)
Apple ID の故人アカウント管理連絡先を追加する方法 – Apple サポート (日本)
故人アカウント管理連絡先がアクセスできるデータ – Apple サポート (日本)
(3) 様々な権利が入り組んでいる
パソコンを例に考えてみます。
パソコン本体は「物」ですので、価値はどうであれ財産として相続できます。この場合の権利としては所有権です。
パソコン内部に保存している写真、動画、文章などには著作権が関わることになるでしょう。
※著作権については別の機会に説明いたします。
その写真には肖像権もあるかもしれません。
個々のアプリ(またはプログラム)には利用権があったり、サブスクリプション等であれば契約期間満了まで定額を支払う義務もあるでしょう。
ブログでアフィリエイト契約をしている場合にも、広告主等との契約だけでなく、広告の有効期間経過後の対応義務も生じるかもしれません。
たった1台のパソコンであっても、様々な利用の仕方があり、その利用ごとに権利や義務が存在しています。
放置していても良いものもあるかもしれませんが、承継や解約をしなければならないものもあるかもしれません。
そうした利用の詳細は「故人しか知らない」ものだったりします。
(もしかすると本人も気づいていない権利や義務があるかもしれませんが・・・)
3 生前に所有者・契約者にやっておいてほしいこと
生前に所有者・契約者にやっておいてほしいことは、言葉で表せばとてもシンプルです。
IDやパスワード(またはパスコード)は、家族や死後事務を依頼する人に伝えてください!
ということに尽きます。
ただ、シンプルだけでも1つの壁があります。
生きている間は秘密にしておきたい
という心の壁です。
この気持ち、わからないでもありません。ひょっとすると、私にもあるかもしれませんし・・・。
でも、「生きている間は秘密にしておきたい」ならば、
「死んだ後なら、遺族がわかる方法」を確実に残してください!
例えば、「ロック解除のパスコードや、利用しているオンラインサービス等とそのIDやパスワードをメモしたものを金庫にいれておく」ことを家族に伝えておくということなら、できそうですよね?
特にスマートフォンについては、パスコードを知らなければロック解除は不可能ですので、これだけは家族に知らせる手段を講じてください!
★Facebookを利用されている方の生前の対応
Facebookを利用されている方が生前にできる死後への備えは、次の3つの方法があります。
- 追悼アカウント管理人を指定しておく。
- 亡くなった後はアカウントを削除する(つまり、Facebookにあるメッセージ、写真、投稿等を完全に削除される)ようにしておく。
- 友達や家族と思い出をシェアするための「グループ」を作成する。
上の1と2については、アカウントの一般設定で「設定とプライバシー」から「設定」をクリックすると、いずれかの方法を指定できます。
詳しくはFacebookのヘルプセンターの「私が死んだ場合、Facebookアカウントはどうなりますか。」を御覧ください。
追悼アカウント
追悼アカウントというのは、「亡くなった方の思い出をシェアするための場所」だそうです。
アカウントの所有者が亡くなったことをFacebookが認識すれば、自動的に追悼アカウントに移行します。(追悼アカウント管理人を指定していなくても、そうなるようです)。
追悼アカウントになると、アカウント所有者の名前の横に「追悼」と表示されます。
その後、有効なリクエストがあれば、このアカウントは完全に削除されます。
★LINEを利用されている方の生前の対応
LINEアカウントは、御本人以外の誰も引き継ぐことはできません。
したがって、お使いの電話番号がキャリアに回収されて別の人に割り当てられた時点で、そのアカウントが削除されるようですが、そうでない場合で特に何もしなければ、そのままアカウントが残ることもあるようです。
死亡後にアカウントを削除したい場合には、御遺族等がLINEの問い合わせフォームから連絡する必要があります。
逆に、死後もトーク上の写真などを保存したい場合には、LINEのクラウド上のサービスのKEEPに保存しておくか、他の方法で別の記録メディアに保存しておいた方が良いでしょう。
4 デジタル遺産への御遺族の対応
まず、できれば生前に所有者からパスコードや利用しているオンラインサービスなどの情報を得ておくようにしましょう。
以下、そうした情報がないまま、所有者が亡くなった時の主な対応を示します。
スマホやパソコンのロックが解除できない時
スマホやパソコンで様々なオンラインサービスを利用していた可能性があるのだけれど、具体的にどんなことをしていたのか分からない場合。
スマホ等のロックを解除しないと、それが何だかわからないことが多いです。
それでも、相続手続をする上で財産確認をすることは必須です。
何よりも、ローンなどの借金や、支払いが発生する契約の確認は、そのまま相続するか、あるいは相続放棄や限定承認を選択するかという判断に欠かせません。
通帳、日記、郵便物等から情報を集める
通帳の取引履歴や郵便物を確認しましょう。そこには取引に関わるヒントが書かれていることがあります。
また、故人と付き合いのあった方からの情報も重要です。
1つの銀行に持っている口座は1つとは限りません。通帳やキャッシュカードがある銀行に、他の口座の有無を確認しましょう。もし通帳がない口座があったら、取引履歴を入手しましょう。
日記、メモ帳の類も見てみましょう。
もしかすると、IDやパスワードに関するヒントがあるかもしれません。
インターネット等を利用した確認方法
★銀行のローンの確認は
⇒ 一般社団法人 全国銀行協会 (zenginkyo.or.jp)
★クレジット系のローンの確認は
⇒ 指定信用情報機関のCIC あるいは 日本信用情報機構(JICC)指定信用情報機関| HOME
★生命保険の加入状況の確認は
⇒ 生命保険協会 生命保険契約照会制度のご案内 | 生命保険協会 (seiho.or.jp)
★証券等の取引口座の確認は
⇒ ご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合|証券保管振替機構 (jasdec.com)
財産の調査に、時間がかかりそうな時は
「どうもローンが残っているようなんだけど・・・」とか「FX取引をしていたようなんだけど・・・」など、場合によっては負債が大きくて相続放棄や限定承認を家庭裁判所に申立てたいということもあるかと思います。
※相続放棄や限定承認については別の機会に紹介します。
ここで注意が必要なのは、次の2点です。
① 相続財産を自分のものにしたり使ってしまうと、相続放棄等ができなくなります。
② 相続放棄や限定承認を申立てる期限は、原則として、相続が発生してから3カ月以内です。
もちろん上記の2点は「原則として」適用されるルールで、例外もあります。
例えば、相続財産の調査に時間がかかりそうな時は、家庭裁判所に申立てれば3か月の期限を延長してもらうことも可能です。
ただ、こうした例外規定を利用するのは素人判断では危険ですので、
早めに(相続開始後3カ月以内に)、弁護士に相談しましょう。
5 参考文献
★「デジタル遺産の法律実務Q&A」(2020年1月30日発行) 弁護士 北川祥一 著(日本加除出版株式会社)
★「デジタル遺品の探しかた しまいかた 残しかた +隠しかた」(2021年10月7日発行)
弁護士・公認会計士 伊勢田篤史 、 ジャーナリスト 古田雄介 著(日本加除出版株式会社)
※このページのイラストは「かわいいフリー素材集『いらすとや』」さんから