遺産の有る無しに関わらず、人が亡くなった後には様々な手続が必要になります。
死亡届の提出、火葬、葬式、遺骨の埋蔵...といったことだけではありません。
生前に亡くなった方の名義でしていた様々な契約。例えば、水道、ガス、電気といったライフラインから、電話、新聞購読やら、最近だとNetflix等のインターネットのサービスの契約をしている方もおられるかもしれません。そうした契約の名義変更や解約手続きも必要になります。
その他にも遺品整理や処分もあります。
人が亡くなった後には、思いのほかやることが多いのです。
これまで、多くの場合には、こうした手続きは配偶者、お子さんや親せきが手分けして行ってきました。
でも、最近は、そもそも死後の手続をする親族がいない方が増えていたり、親族がいるとしても事務の多さや複雑さから途中で音を上げてしまうことも出てきました。
そこで、死後の様々な事務を、生前に行政書士などの第三者に依頼しておく
死後事務委任契約
が重要になっています。
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死後事務委任契約の契約の仕方
本人が元気なうちに、死後事務を引き受けてくれる方と契約をします。
理屈としては、死後事務だけを単独で契約することが可能ですが、実際に事務を滞りなく行うことを考えると、あまりお勧めしません。
※親族や友人のように「常に会う人」に死後事務を依頼するなら死後事務だけ単独で契約することもあり得ます。
なぜなら、死後事務は死後すぐに手続を開始することが多いため「亡くなったことをできるだけ早期に知る」必要があるからです。
また、依頼者が亡くなった後の事務ですので、依頼者の各契約、遺品になりそうなもの、人間関係等を依頼者から漏れなく聞いておくことが必要です。こうしたことを第三者が正確に把握するのは、かなりの時間がかかります。
さらに、お葬式はどうしたいのか、誰に連絡をすべきなのか、遺品はどのように取り扱うかなど、依頼者の希望を聞いておかなければならないので、これまた十分な時間を要することです。
このようなことを考えると、次のような他の事がらと一緒に依頼するのが一般的かと思います。
- 見守り契約 (定期的に電話または面談で、ご本人の状況を確認したり、相談をしたりする契約)
- 財産管理委任契約 (体力の低下、入院等でご本人の代わりに財産を管理する契約)
- 任意後見契約 (認知症になった場合に、ご本人の代わりに財産管理や様々な契約をする契約)
- 遺言執行者 (遺言を書く場合に、遺言の内容を実現する業務を依頼する)
上の1~3と死後事務をセットで契約するのが理想的です。
でも、費用の面で厳しい場合には、1の見守り契約だけは死後事務に合わせて契約した方が良いと思います。
4の遺言執行者は、あえて死後事務を依頼する人とは別の人にお願いするのも有り得ます。
死後事務委任契約は、できるだけ公正証書で!
公正証書とは、公証人という法律のプロである公務員が、本人の意思の確認など正確な手続をして作る書類です。
そのため信頼性抜群の書類ができます。
死後事務委任契約は公正証書で作らなければならない、というルールはありません。
でも死後事務委任契約は、契約した時の本人の意思が重要なので、ぜひ、公正証書で契約書を作るようにしましょう。
死後事務委任契約の注意点
死後事務委任契約は依頼者が亡くなった後の様々な手続を、第三者に依頼する契約です。
そのため、契約前に確認しておいた方がよいことがあります。その注意点の主なものを記します。
はじめに簡単に言葉の意味を紹介します。
依頼した仕事を引き受けてくれる人を「受任者(じゅにんしゃ)」と言います。
(1) 費用と報酬に関わるお金の支払いと保管方法は?
「他人に事務を依頼する契約」の場合、通常は、仕事が終わった後で報酬を支払います。予想できる費用に関しては事前に預けていただくこともありますし、着手金として報酬の一部をいただくこともありますが、基本的には事後の支払いです。
死後事務委任契約の場合、依頼者が亡くなった後の仕事ですので、費用と報酬の支払い方法が問題になります。
概ね、次の5つの方法が考えられます。
- あらかじめ「預託金」として支払う。
- 死後事務委任契約専用の預金口座を作り、キャッシュカード又は通帳と印鑑を預ける。
- 信託銀行の高齢者向け又は認知症対応のサービスを利用する。
- 信託会社の死後事務委任契約対応の商品を利用する。
- 遺言執行者が遺産の中から支払うように遺言書に書いておく。
この内3と4は、安心して費用や報酬にあてるお金を預けられる仕組みです。ただし信託銀行や信託会社に支払う手数料が高額になる場合があります。ただ、信託銀行の中には比較的、安い料金で利用できるサービスを提供している場合もありますので、一度、お問合せください。
5は受任者の仕事を遺言執行者が監督できることも魅力ですし、事前に、お金を支払う必要もありません。ただし、遺言執行者への報酬が別に必要になります。
2は任意後見契約と一緒に契約する場合に、よく取られる方法です。ただ、依頼者が死亡した場合に、口座が凍結されるので、そのことへの対応が必要になります。
1の預託金は、事前に、預託金の保管方法と解約した場合の返金方法について慎重に確認した方が良いです。保管方法は受任者の他のお金と分けて管理していることが大切な確認ポイントになります。
(2) 受任者はどのような人?
依頼者の死後の手続を依頼するのですから、依頼者と受任者の信頼関係が大切になります。
その他に、受任者が個人の場合には、その方の年齢にも注意すべきです。
例えば、依頼者が70歳の時に受任者が60歳だった場合。依頼者が90歳で亡くなるとすると受任者は80歳です。今の80歳は元気な方が多いのですが、様々な手続をするにはリスクが高くなることも事実です。
したがって受任者が仕事ができなくなった場合への備えも必要になるかもしれません。
(3) 相続人さんとの関係は?
死後事務の多くは、これまでの慣習としては御遺族が行っている事です。
特に死亡届提出から火葬・葬儀・納骨等までの一連の流れや、遺品整理については思い入れのある遺族も中にはいらっしゃいます。
そのため、御遺族がいらっしゃる場合には、生前に死後事務の内容を御遺族に了解していただくことが、スムーズな手続遂行に大切になります。場合によっては、受任者と御遺族が打合せをしておくことも考えてみましょう。