この2020年7月の大雨によって、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りいたします。また、安否がわからない方の御家族の御心痛はいかばかりかと存じます。
この大雨でも多くの方が被災されました。
中でも、私の心にひっかかるものが、熊本の特別養護老人ホーム「千寿園」のことです。
気象庁も予想しきれなかったほどの雨量と、急激な増水であったので、非常に残念だけれども、この結果を防ぐことは難しかっただろうと思います。
ですが、今後の防災の面からは、今回の件から何かを学び考え、改善を果たしていかなければならないのも確かです。
ここでは、2020年7月6日の朝日新聞の記事やNHKのニュース報道を基にした、現時点での私の感想も含めた簡単な私見を書き留めておきます。
Table of Contents
1 高齢者施設等について
高齢者施設の中でも、特に特養についてです。
千寿園もそうでしたが、多くの特養は川の側だったり、崖や山裾が迫っている所だったり、周囲が田畑だったりといった、郊外の少し不便なところにあったりします。
つまり、そもそも災害に遭うリスクの高い所にある施設が多いのではないでしょうか。
また、御家族の介護の経験をされている方は御存知だと思いますが、入居するのは順番を待たなければなりません。
つまり、常に部屋やベッドに空きがない。
一方で、介護にあたる人材は不足しており、各施設はあの手この手で人材を確保しようと必死です。
これらすべてのことが、平時に防災の計画・準備・訓練に影響してくると思います。
7月8日にNHK仙台放送局が報じたニュースでは、宮城県内の福祉施設や病院に作成が義務付けられている避難計画を、4割近くの施設で作成していないことが明らかにされました。
2 災害時の高齢者施設の課題
課題1
まず、車椅子などを利用しての移動になると思われるので、介助する人が必要です。
避難が必要な高齢者をすべて安全な場所に移動するのに、何人の介助者が必要なのでしょうか?
課題2
千寿園が被災した時、地域住民が駆けつけて高齢者の避難や救助を手伝ったと報じられています。
これは、地域住民と千寿園との日頃の結びつきの良さを示していると思いますし、また、住民の皆さんの行動に頭が下がる思いです。
一方で、救助に向かわれた地域の方々は危険にさらされた、ということにもなります。
これまでの多くの災害でも、消防署員や警察官だけでなく、民生委員や町内会等の役員、消防団員といった方だけではなく、近所の高齢者を気遣って声をかけにいった人たちが命を落としたりしています。
温かな気持ちを、より安全な方法で行動化できないものでしょうか?
課題3
垂直避難は、同じ建物(あるいは通路などでつながっている別棟)の空きスペース、または避難者のために臨時に確保されたスペースへの避難になります。
千寿園の場合、1階は水没だったようです。映像では建物は2階まであったようですけど、2階部分はそれほど広くは見えませんでした。
高齢者や障がい者の施設の場合、建物は何階まであって、上の階に空きスペースがどのくらいあるのか?という問題もあると思うのです。
課題4
垂直避難の場合は、エレベーターを使用することになると思うので、時間がかかることは想像できます。
避難に必要な時間は?
課題5
災害からの避難は、一日二日我慢すれば元に戻れるということにならないかもしれません。
一方、入所している高齢者は、持病があったり、オムツ等の介護用品が必要だったりします。
避難する場所に、それらを備蓄しておく場所はあるのか?補給がされやすい場所でしょうか?
課題6
多くの高齢者施設は、地域の福祉避難所に指定されていると思います。
福祉避難所は、病気や障がい、乳幼児などの特別な配慮が必要な方(要配慮者と言われます)とその同伴者が、支援を受けながら避難できる場所です。
想定されている利用方法としては、地域の指定避難所に避難してきた方の中に、要配慮者がいる場合に、市町村の判断で福祉避難所を設けることを、施設に要請するとあります。
3 思いつきで恐縮です
上に書いたような、私の問題意識をもとに、思い付きの案を書いてみます。
「いや、それは無理だよ」と現場の方、行政の担当者に一蹴されたり、
逆に、「もうやってるよ」、「それは検討してみたけど、ダメだった」もあるかもしれません。
とりあえず、検討材料の1つとして一瞥して頂けたら幸いです。
① 避難支援パートナー・ボランティアを登録制として利用できないか?
災害が起きそうな時に他所に避難するにしろ、垂直避難を選択するにしろ、移動を介助する人が必要なことに変わりはありません。
職員を総動員するという手もありますが、これが適切なのかどうか、私には疑問です。なぜなら、
- 職員も被災者になる可能性が高いことから、家族や自宅への対応も必要になる。
- 復旧まで長期戦を覚悟しなければならず、職員の休養も必要である。
一方で、職員以外に手伝っていただく場合、職員並みのものではなくても、多少の介助の知識・技術が必要になると思います。
だから、緊急時に支援可能な方々に、事前に登録していただき、年に1回でも2回でも、移動等の練習をしていただいたらいかがでしょうか?
お気持ちのある方がたであれば、どなたでもかまわないと思いますが、例えば、次のような方に登録して頂けたらいかがでしょう?
- 自宅で高齢者等を介護している方
- 医療系あるいは福祉系の学生
- 元医療または福祉関係施設の職員
これらの方々の中で、1晩だけ宿直につきあっていただく。
自宅で高齢者等を介護している方の場合、その介護されている高齢者等も御一緒に施設で過ごしてもらう。つまり、その高齢者の事前避難も兼ねるということ。
② 民間宿泊施設を福祉避難所として利用できないか?
この点については、既に旅館等と事前協定を結んでいる自治体もあります。
また、実績もあるようです。
たとえば、2020年7月9日にNHK長野放送局が伝えたところでは、重度障碍者施設「阿智温泉療護園」が、すぐ目の前にある旅館に避難させてもらっています。
ただ民間施設を福祉避難所とする場合、この施設に保健師等の自治体の専門職員を派遣すべきです。
また、医療や介護に必要な機器や薬などを持ち込む必要があります。
福祉施設が避難所として利用するのであれば、機器等の持ち込みは問題ないと思いますが、福祉施設の利用が前提でない場合には、検討課題になります。
逆にこの利点は、普段、在宅で療養生活を送っている方がたの場合、事前避難がしやすいのでは、と考えます(あらかじめ市区町村が指定していることと、事前避難を了承していればですが)。
③ 特養の敷地内の駐車場などを、避難タワーのような機能の建物にできないか?
東日本大震災の後、津波からの避難のための建物が各地に建設されています。
避難目的に特化したものもあれば、1階は津波に襲われても、2階以上に避難できるように建替えた学校等もあります。
特養や障がい者施設を、災害リスクの少ない場所に建設することは難しいと思います。
また、現在ある場所に、災害に対応できる建物に建て替えるのも予算的に厳しいところもあるかと思います。
もし、敷地に青空駐車場のような空間があるならば、そこの一部を避難タワーのようなものにしてしまう、というアイディアです。
避難スペースとして利用する2階以上の部分は、普段は、利用者の運動場とか、会議室だとか、とにかく居住以外の目的に利用する。災害の危険が予想される時に、入居者や近隣の要配慮者の避難スペースとして使えればよい。
既存の建物とは、渡り廊下やスロープなどでつなぎ、極力、エレベーターのように電力で動かす機器には頼らないという考慮も必要かもしれません。
4 最後に
以上、まだ情報が不確かな内に、ほぼ思い付きで書きました。
おそらくは、今、進行中の状況が一段落したら専門家による詳細な分析報告があるかと思います。
ただ一言申し上げれば、毎年のように「これまで経験しなかったような雨」とかによる災害が起きている中、専門家の意見を踏まえた上で、それぞれの地域や職場で、より想像力を高めて準備・訓練していかなければならないと思います。
この記事が、みなさんの想像力の喚起につながりますように。
普段、御自宅で生活されておられる方の、防災についても気がかりなところです。
その点については、また改めて。