秘密証書遺言の使い勝手はどうなんでしょう?

 遺言書への関心が高まっているような感じがしますが、実際に作成する遺言書の大半は、自筆証書遺言(注1)か、公正証書遺言(注2)だと思います。

(注1) 自筆証書遺言⇒自分で手書きする遺言書

(注2) 公正証書遺言 ⇒ 公証人に、遺言内容やそれに関連する情報を伝えて、文書を作成してもらう遺言書

 でも、遺言書には、知っている人がほとんどいない「秘密証書遺言」という作り方もあるのです。

 2016年に日本財団がインターネットで行った調査では、遺言書を作成した人の1.5%が秘密証書遺言だったそうです。

インターネットでの調査である事等の事情を考えると、もっと少ない気がするのですが、詳しい統計データを見つけられませんでした。

 私自身を振り返ると、この秘密証書遺言は「長所よりも短所の方が多い、きわめて使い勝手の悪い遺言書」という認識でしたので、セミナーでも話題にしたことがありませんでした。

 でも、多くの方の遺言書作成のお手伝いを通して、

「秘密証書遺言は場合によっては、選択肢の一つとして考えてよい」

と思うようになりました。

 以下、その理由も含めて秘密証書遺言について記します。

1.秘密証書遺言の作り方と保管方法

 秘密証書遺言の作成から保管にいたる手順は、おおむね次の通りです。

【手順1】 遺言書を作ろう!

 まず、遺言書を作りますが、この作り方が秘密証書遺言の大きな特徴です。

 具体的には、次のような作り方ができます。

  •  自分でパソコンで書く。 
  •  他の人に頼んで作ってもらう。 

出来上がった遺言書に、署名(必ず本人の手書き)と押印(認印でもOKですが、実印をお勧めします)をします。

 つまり、遺言をする本人は、最低限、署名だけすれば良いのです!

 署名と押印をしたら、遺言書を封筒に入れて封をします

 封をしたところに遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑で封をしましょう!

 写真(下手な写真と押印でごめんなさい!)のように封をしたところにまたがるように3カ所でもいいですし、真ん中の1カ所でもOKです。

 以上で手順1は完了です!

 なお、封筒に「遺言書」と記載したり、遺言者の氏名・住所・年月日を書くように紹介しているWebサイトもあるようですが、法律ではそのような決まりはありません。ですから、書かなくても大丈夫です。

 というより、秘密証書遺言の場合は、何も書かないが良いと思います。なぜなら公証役場で、この封筒に公証人が所定事項を記載または紙を貼り付けるようになるからです。

 ただ、自筆証書遺言書の場合には、「遺言書」とか氏名・年月日(遺言書と同じ日付)は最低限として書いた方が良いと思います。

※遺言書を入れる封筒は、A4用紙を折らずに入れることができる大きめのものが良いと思います。

※遺言書を封筒に入れて封印をするのは、公証役場に行く直前が良いと思います。封筒に入っている遺言書が入れ替えられるリスクを防ぐためです。その心配がないなら、それ以前でも良いのですが。

【手順2】 公証役場に行こう!

 まず、公証役場に作成の予約をしましょう。

 その上で、次の物と証人を準備します。

  • 遺言書を入れて封印した封筒
  • 証人2名 (証人は、本人確認書類としてマイナンバーカードや運転免許証、印鑑を持参)
  • 本人確認書類 (印鑑が実印の場合には印鑑証明書、それ以外ならマイナンバーカードなど)
  • 印鑑  (封印した印鑑と同じもの)
  • 手数料 (11,000円を現金で!)

 公証役場では、公証人に遺言書を入れて封印した封筒を提出した後は、公証人の指示に従います。

 公証人は次のようなことを確認すると思います。

  • 遺言者の氏名・生年月日・住所・職業
  • 遺言書の入った封筒は遺言者の遺言であること
  • 遺言書を書いた人(他人に書いてもらった場合、その書いた人の氏名や職業など)
  • 証人の氏名・生年月日・住所・職業

 公証人は所定事項を封筒に書き、遺言者・公証人・証人が署名押印し、「この封書が秘密証書遺言」であることが成立します。あるいは封筒に書くのではなく、所定事項を書いた用紙に署名押印し、封筒に貼り契印をする方法かもしれません。

 いずれにしても、全員が署名押印して、ようやく秘密証書遺言のできあがりです!

※証人

 証人は、簡単に言うと赤の他人になってもらった方が良いです。

逆に証人になれないのは次のような人です。

  • 家族(配偶者、子ども、孫)。
  • 親、祖父母、兄弟姉妹、甥姪も相続人になるならダメです。また、それらの配偶者もダメです。
  • 受遺者(相続人の他に、遺言で遺産をもらう人・法人のこと)とその家族。
  • 未成年者
  • 公証人とその家族の他、公証役場の職員の方々

なお、行政書士等の専門職が証人になる場合には報酬が必要です。

※公証役場に予約をするとき

次の事がらは、公証人が作成する封紙に書かれる事がらです。

  • 遺言する人の氏名、生年月日、住所
  • 本人以外の方が遺言書を書いた場合には、その筆者の氏名、生年月日、住所
  • 証人の氏名、生年月日、職業、住所

これらの事柄を公証人に事前に伝えるかどうか、予約をする時に聞いておくと良いでしょう。

【手順3】 遺言書を保管しよう!

秘密証書遺言は遺言者ご本人の考えで保管します。考えられる保管場所は次のところです。

  1. 自宅
  2. 信頼できる家族
  3. 遺言執行者 (遺言書に遺言内容の実現を依頼する遺言執行者を書いた場合)

保管場所として不適当なのは次のような場所です

  • 遺言する本人名義の貸金庫
  • 本箱の書籍の間など、遺族が探すのに手間がかかる所

せっかく手間暇かけて作った遺言書は、その存在を相続人に知ってもらうべきです。ですから、少なくとも「遺言書は作って、〇〇に保管してある」ことは信頼できる家族には伝えておいてください。

★遺言書の作り方ごとのおおよその費用目安

遺言書の種類おおよその費用
自筆証書遺言を自分で保管ほぼ0円
ただし、家庭裁判所の検認に収入印紙800円
自筆証書遺言を法務局で保管法務局に預ける時に3,900円(収入印紙)
遺言諸情報証明書の交付請求に1,400円
秘密証書遺言公証人への手数料 ⇒ 11,000円
第三者に作成依頼 ⇒ 作成の報酬
第三者に証人   ⇒ 報酬
家庭裁判所の検認に収入印紙800円
公正証書遺言公証人への手数料 ⇒ 数万円
行政書士等へ公証人との調整を依頼 ⇒ 報酬
第三者に証人   ⇒ 報酬
費用にはその他に、戸籍謄本や住民票、印鑑登録証明書等の取得費用がかかる場合があります。

※上記費用は、令和6年8月1日時点です

2.秘密証書遺言の長所

秘密証書遺言には次の3つの長所があると思います。

① 遺言者本人の手書きは署名だけ!

「遺言書の本文を手書きしなくても良い」し、自分で書く自信がないなら「他人に書いてもらっても良い」というのは、遺言書を作る時の負担がずいぶん楽になります。

ただし、遺言が無効にならないように慎重に作りましょう!

※秘密証書遺言も全文を自筆で書けば、秘密証書遺言としては無効でも自筆証書遺言として有効になる可能性もあります。ただ、全文自筆で書くなら、秘密証書遺言を作る意味が無いと私は思います。

② 訂正が楽チン!

 パソコンで遺言書を作るなら、印刷後の最終チェックで間違いに気づいたり、気持ちが変わって書き直したくなった場合でも、封筒に入れる前なら簡単に書き直しができます。

 自筆証書遺言の場合には、法律で決められた面倒な訂正の仕方をするか、1ページ丸ごと書き直さなければならないので、ほんの一字の間違いを見つけた時でも、物凄くがっかりします。

 公正証書遺言は、署名押印前なら公証人に申し出て訂正するので手間としては楽ですが、気持ちの上での負担は大きいと思います。

③ 公正証書遺言より安くできる!

 秘密証書遺言は、公証人への手数料が1万1千円の定額。

 公正証書遺言の場合は、財産の価格や分け方、遺言書の枚数などによっても変わりますが、少なくても3万円はします(おおむね4万円以上とみておいた方が良いと思います)。

④ 遺言の内容を秘密にできる!

 秘密証書遺言は、「遺言を書いた」という事実は公証人や証人の少なくとも3人に知られますが、秘密証書遺言の本文を自分で書くなら、内容は秘密にできます。

 仮に行政書士等の専門職に遺言書の本文を書いてもらったとしても、専門職には守秘義務があるので、それ以外の人に知られることはありません。

 一方、公正証書遺言の場合は、公証人はもちろん、その場に立ち会う証人2名も遺言内容を知ることになります(そのための証人なので)。

3.秘密証書遺言の注意点(あるいは弱点?)

何事もそうですが、長所は弱点にもなり得ます。

特に次の4点については、特に注意が必要です。

ただ弱点は補うことはできます。手間暇や費用がかかるかもしれませんが…。それを踏まえて以下を御覧ください。

① 遺言の内容が本人の意思に合っている?

 遺言で最も大切なことは「遺言の内容が本人の意思通りであること」です。

 秘密証書遺言はパソコンで作成できるし、他人に書いてもらうことも可能です。このことは、他人が本人になりすまして作成することも可能であることを意味します。

 そのため、遺言書に書かれていることが「本当に本人の意思の通りである」という確証が、そのままでは自筆証書遺言や公正証書遺言より弱いと私は思います。

② 遺言書を作成した当時、本人の判断能力は?

 秘密証書遺言は公証役場で封紙をもらって完成します。そのときに本人の判断能力を公証人や証人が確認することはできます。

 でも、遺言書の本文を書いている時のことは、公証人や証人にはわかりません。

 遺言書を他人に誘導されて書いたとしても、その内容が法的に有効になる恐れがあります。

③ 遺言書の保管方法

 秘密証書遺言は、自宅や遺言執行者の事務所等で保管しますが、本人が亡くなった後できるだけ速やかに関係者に見つけてもらう必要があります。

 またそれまでの間、遺言書が無くなったり、汚れて遺言書の内容が読めない事態にならないように保管する必要もあります。

④ 家庭裁判所の検認が必要

 秘密証書遺言は封印をして保管されています。

 御本人が亡くなった後、相続人または遺言執行者は、そのままの状態で家庭裁判所に検認の申立てをする必要があります。

 遺言書は家庭裁判所が開封します。

 家庭裁判所以外で開封すると5万円以下の過料になります。検認しないで相続手続きした場合も同様です。

 なお、遺言書を見つけたのに無視したり放置して他の方法で相続手続きをしたりすると、場合によっては相続ができなくなるかもしれません。

家庭裁判所の検認とは

遺言書が見つかった時の状態を確認するための手続きです。

言い換えれば、遺言書の改ざん等を防ぐために行うものでもあります。

検認の申立てを受けた家庭裁判所は、検認の期日を決めて、相続人や関係者に呼出状をだします。検認に立ち会うかどうかは相続人たちの判断です。

自筆証書遺言を法務局以外の場所で保管していた場合や秘密証書遺言は、この検認の手続きを経ないといけない決まりになっています。

4.秘密証書遺言で作成する?

 例えば、「自分の名前なら何とか書けるけど、長い文は手が震えて書けない」という方。あるいは、元々、字を書く自信がない方。

 こうした方々に、これまで私は公正証書遺言を勧めていました。

 でも、中には高額の費用がかかることや、証人等の他人に遺言内容を聞かれることを心配される方もいらっしゃいます。

 こうした場合に、もしかすると秘密証書遺言が有力な選択肢になるのではと、私は考えるようになりました。

 ただし、秘密証書遺言には、自筆証書遺言よりも重要な注意点があります。

 それを踏まえて、十分な対策をして作る必要があるのは言うまでもありません。

 

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