避難所に指定された学校の責任

昨日に引き続き、東日本大震災に関わる判決を再読しておりました。今日は、野蒜小学校事件についてです。

一言で、野蒜小学校事件と言っても、内容は大きく言って2つに分かれます。

  1. 学校の体育館に避難してきた住民が、津波に巻き込まれて亡くなった事件(被災者2名それぞれの遺族が提訴)
  2. 学校に避難してきた児童を、引渡し後の安全確認をせずに、事前に登録していた災害時児童引取責任者ではない者に引渡した後、その児童が亡くなった事件

2については、他の場所でも触れているので、そちらを御覧ください。

今回は、1に関連して、市町村が策定した地域防災計画で、指定緊急避難場所または指定避難所とされた学校長の責任についてまとめてみます。

ちなみにこの事件は、最高裁まで争われましたが、2018年5月30日に上告が棄却されたので、1、2審の判決が確定しています。

市町村は地域防災計画の中で、指定緊急避難場所や指定避難所の管理者の役割等について規定しなければなりません。(災害対策基本法第7条、第42条、第49条の4から第49条の9まで)

・・・注1

原審、控訴審とも,法律で言う「避難所の管理者」とは市町村教育委員会であると指摘しています。

なぜ管理者の規定が大切かというと、施設管理者には、その施設を利用する人に対して安全配慮義務とか、危険を予見し、回避する義務、そのための情報収集義務などが発生するからなのです。

つまり、両判決は、上記の法的義務は市町村教育委員会にある、と言っているのだと思います。

ただ原審は「校長は教育委員会の補助機関」としていて、また控訴審は「地域防災計画に言う『施設の管理者』とは、現実に施設を管理する校長と解する」と、結局、校長に上記の法的義務があることを認め、「校長の判断や行為の結果を、本来の管理者である教育委員会が負う」という構成をしております。

この裁判では、結論的には避難してきた住民が亡くなったことについて、校長の責任を認めませんでした。

その判断理由を控訴審の判決文から引きます。

「校長の学校施設の現実の管理者としての責務は、このような自ら適切な避難行動をとり得る住民らに対するものであるから、校長の本来的かつ重要な義務である児童の生命、身体を保護すべき義務とは本質的に異なる・・・災害発生時、学校施設内に児童らが存する場合においては、・・・当然に避難者らを誘導する義務まで負っていたと解することは相当ではない(もとより誘導することが望ましいことはいうまでもない)」

住民が避難してきたときに、児童が在校していたということが、この裁判で校長・教育委員会・東松島市が賠償責任を免れた大きな要因ではないかと、私は思います。

私流に判決理由を言い換えれば「子どもの安全確保が最優先で、そのことで今いっぱいいっぱいなんだし、元々、そういう役割なのだから、自分で判断できる大人は自分で判断して行動してください」ということになるのかなと。

でも、注意が必要です。

長期休業中や生徒下校後のように、子供が学校にいない時には、施設管理者(あるいはその補助機関)として、避難してきた住民に対する安全配慮や危険回避義務等の優先順位が上がります。

この事件の場合には、津波が体育館に到達するという予見可能性が否定されているので、児童がいなかったとしても結論は変わらないかもしれませんが、もし日和幼稚園のように「情報収集義務を果たしていれば、津波の到来は、当然予見できた」となれば、結果に対する責任を負うことになるでしょう。

またこの裁判は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求だったのですが、同条2項に規定されている、重大な過失を行った公務員に対し地方公共団体が持っている求償権にも注意が必要なのでないかと私は思います。

・・・注2

つまり、「大人なんだから自分で責任取って」と漫然と構えていたら、事実上の管理責任者とみなされる校長も責任を負うことになるかもしれない、ということです。

以上のことから、避難所として指定された学校の校長としては(あるいは本来の管理責任者である教育委員会としては)、次の準備をすることが必要だと私は考えます。

  1. 地域防災計画または避難所運営マニュアル等の中で、学校と、地域の避難所運営責任者との役割分担や責任範囲を、可能な限り明確にする。
  2. 学校は、住民が避難し始めてから避難所運営組織が立ち上がるまでは、住民対応も視野に入れて、安全配慮義務・危険を予測するための情報収集・危険を回避する行動の3点を確実に実施できるよう、組織作りを行う。
  3. 1と2を踏まえた地区防災計画づくりに、学校も主体的に関わる。
  4. 3の地区防災計画に基づいた地区防災訓練を実施する。

「もうやってるよ」という学校には、余計なことではありました。

逆に、地域住民は、自助と共助の原則にのっとり、つまり、「学校に避難したのだから学校にお任せ」ではなく、情報収集と危険回避の行動を、避難した者同士が協力して行うことが重要なのです。

<注1> 指定緊急避難場所と指定避難所の違い(両方兼ねている施設も多い)

指定緊急避難場所:避難勧告や避難指示等が出されるときに、災害の種類(洪水、津波など)ごとに指定されている避難場所

指定避難所:避難のために必要な間、あるいは災害のため住まいを確保することが難しい住民を一時的に滞在させる施設

※中には土砂崩れが心配される土地にある学校や、かなり老朽化した建物が避難場所になっていたりすることもあるようです。そのように避難所・避難場所として不適切な場合には、市町村に申し出て指定を取り消した方がよいでしょう。(また、もともと避難所でないのに、住民が避難してくることもあるので、その恐れがある場合は、あらかじめ広報しておくことが必要です)

<注2>これまであまり公務員の重大な過失が認定されることはなかったと言われていますが、平成28年にこれを認める判決が2件出ていることから、求償権を行使する例が増えるのではないか、と指摘している弁護士さんもおられます

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