令和5年7月20日の地元紙:河北新報朝刊に「宮城・山元海岸死体遺棄 ~ 2被告猶予付き判決」という見出しの記事が掲載されていました。
この判決は昨年の12月に宮城県で起きた死体遺棄事件の裁判のものです。角田市に住む被告(75歳)が、同居していた甥(当時68歳)が自宅で亡くなっているのを発見。かなり低額の年金で生活していた被告は「お金が無いから葬式ができない」と考え、同じく同居していた知人(67歳)と山本町の海岸に遺体を埋めたそうです。
とても悲しいことですが、こうした事件は宮城県で何度も起きています。
自宅で介護あるいは療養していた方が亡くなった後もそのまま遺体を放置していたり、今回のように埋めたりといった事件です。
こうした事態に至るのは、様々な事情があるなだろうと思います。
でも、それらの内のいくつかは「葬式代を出せない」とか「どのような手続をすれば良いかわからない」という事情もあるように報道を見ていて感じます。
そうした意味で以下に「同居している人が亡くなっても、お金が無くて葬式があげられない」と心配している人の助けに少しでもなればという想いを込めて、手続や制度などを紹介します。
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1.同居している人が自宅で亡くなった時の対応
同居している人が自宅で亡くなった場合には、以下の①から⑥の順序で対応します。これらの手続を踏まないと、場合によっては犯罪を疑わることも有り得ます。
これを知らなくても、医師が死亡を確認した後の多くの手続は、葬儀社が手続きを代行してくれます。だから
お葬式までの手続は、葬儀屋さんに聞いてみよう!
ということだけを覚えておけば大丈夫です。私もこの仕事を始めるまでは、葬儀屋さん頼みでした。
また、お金が無い場合には「お金がない」と率直に言って相談すると良いでしょう。
きちんとした葬儀屋さんなら、様々な支援制度を知っています。良心的な葬儀社ならば、そうした支援制度を踏まえた上で可能な範囲・料金で対応を考えてくれるでしょう。
同居している人が亡くなった後は気持ちも落ち着きを無くします。だから、前もって良心的な葬儀社を探しておくことも大切なことです!
※現在では、会社に所属せずフリーで葬式をコーディネートしてくれる人もいます。
※遺体の搬送は、正確には遺体を「搬送する許可を得ている者」が事業として行えます。事業として行わないのであれば、特に資格は必要ありません。でも、大規模な災害のような非常時ならともかく、そういう状況でないならば犯罪行為を疑われることなく遺体を搬送するのは現実的ではないと、私は思います。
① 救急車を呼ぶ。
自宅で人が倒れていたり、意識のない状態でいたならば、まず救急車を呼ぶべきです。
これをためらってはいけません。
「亡くなっているのか、生きているのか?」とか「お金がかかるのではないか?」など、もしかすると様々な想いがわくかもしれません。それでも迷わず即、救急車を呼びましょう!
後で警察から状況などを聞かれることがあるかもしれませんが、心配には及びません。堂々と、知っていることを答えれば良いだけです。
もし、訪問診療を受けていた方など「かかりつけの医師」がいる場合で、亡くなっていることがほとんど確実ならば、その医師に電話することも有り得ます。
ただ、倒れている人・意識のない人を救命の目的以外でその場から動かすことは止めましょう。救命のため動かす場合でも必要最小限の範囲内に留めましょう。
② 死亡診断書 (死体検案書) をもらう。
医師が死亡を確認した場合には死亡診断書を発行します。死因等を確認するために検視した場合には死体検案書が発行されます。
もらった死亡診断書は、必ず2~3枚はコピーをとっておきましょう。
後の手続で必要になります。
③ 亡くなってから7日以内に市町村の役場に死亡届と火葬許可申請書を出す。
死亡診断書を一緒に提出します。
火葬場の予約をとっておくと、役場への手続が楽になるかと思います。
市町村によっては死亡届を提出するだけで火葬許可証を発行してくれる自治体もあります。
なお、死後24時間以上経過した後に火葬ができます。火葬場に予約を入れる時に念頭に置いておくと戸惑わずに済みます。
④ 火葬許可証を市町村役場からもらう。
必ずしも火葬をする義務はないのですが、搬送・安置・埋葬やその他の事を考えると、日本では火葬することに越したことはありません。
そして、火葬をする場合には火葬許可証が必要になります。
⑤ 火葬する。
遺体を火葬場に搬送し火葬する時に、自治体が発行した火葬許可証を提出します。
火葬許可証がないと火葬できませんので、無くさないようにしましょう。
⑥ 火葬場から遺骨を引取るとともに、火葬済の印章のついた火葬許可証か埋葬許可証を受取る。
遺骨を引取るとともに、埋葬許可証等を受取ることができたら、死後の手続は一段落つきます。
ここまでは
葬式等にかかるお金のことは、この後、時間をかけて考えれば良いのです!
★ 遺体の発見から遺骨の引取りまでの間に、かかるお金
同居人が倒れているのを発見してから、火葬後に遺骨を引取るまでに、いったい幾らくらいのお金がかかるのでしょうか?
※合計で見積額は葬祭扶助の直葬を説明する所に、おおよその平均額を示しています。
① 死亡診断書 または 死体検案書 にかかるお金
死亡診断書等にかかる金額は、病院等によって違います。
でも、インターネットで調べてみると、概ね次のような金額です。
●死亡診断書 ・・・ 3千円~1万円
●死体検案書 ・・・ 3万円~10万円
死体検案書にかかるお金が高いのは、遺体の搬送費用などがかかるためだと言われています。
② 遺体の搬送にかかるお金
遺体を自分の車で搬送することは、そのことだけで違法になることはありませんが現実的ではありません。
ですから、必ず遺体搬送は葬儀社に依頼してください。
搬送費用の相場は、搬送距離10kmまでで1万2千円~2万円くらい。10kmを超える場合には10km毎に2千円~5千円位加算されていきます。途中で有料道路を通ればその分も加算します。
また、搬送する時に必要な棺・納体袋・ドライアイス等に4万円位かかるようです。おそらくは棺の種類やグレードによって費用は変わると思います。
★上の金額には燃料費、その他の物価の値上がり分は考慮されておりませんので、ご注意ください。
③ 遺体を火葬するまで安置にかかるお金
火葬されるまでの間、遺体を安置する必要があります。
これには、次のような費用がかかります。
●遺体安置の場所にかかる費用
●遺体の状態を保つための費用
安置場所にかかる費用は、自宅に安置ならもちろん0円です。
葬儀社や斎場(火葬場)や民間の遺体保管場所を利用する場合には1日ごとに1万円から3万円を見る必要があります。
ちなみに、仙台市の葛岡斎場の場合、遺体が仙台市民なら1日1,500円。仙台市民以外なら1日4,500円です。
遺体の状態を保つための費用としては、ドライアイスでの保冷にかかる分として1日に1万円から3万円かかるようです。
④ 火葬にかかるお金
火葬場を運営する自治体等によっても金額は変わると思います。
私が住む仙台市の場合を例にとってみると、次のようになります。
火葬炉使用料 ※6歳以上の遺体の場合 | ●仙台市民 ・・・ 1体 9,000円 ●仙台市民以外 ・・・ 1対27,200円 |
待合室使用料 ※2時間までの場合 | ●仙台市民 ・・・ 5,000円 ●仙台市民以外 ・・・ 15,300円 |
★犯罪を疑われる行為
倒れている人・意識のない人を見つけた時に、救急車を呼んだり警察に通報したり、他の人に助けを求めたりといった行為をしない。そうした場合には遺棄罪(刑法第217条)または保護責任者遺棄罪(刑法第218条)を問われるかもしれません。
亡くなったことを知りながら、火葬も葬式もせずに遺体を放置している場合には死体遺棄罪(刑法第190条)に触れます。
死亡診断書や火葬許可証を持たずに遺体を運ぶと死体遺棄罪等を疑われるかもしれません。
火葬しないことは犯罪ではありませんが、市区町村から埋葬許可を得ずに土葬すると死体遺棄罪に該当することになるでしょう。
火葬は火葬場で行う必要があります。火葬場以外で火葬すると
埋葬許可を得ていたとしても、墓地以外の場所に遺骨や遺体を埋める行為は死体遺棄罪や墓地埋葬法違反に問われます。
死亡届を出さない行為は戸籍法に違反するだけではなく、社会保険や年金など他の法律にも関わってくる可能性があります。
結局のところ、少なくとも次の2点だけは忘れずに実行すべきです。
倒れている人・意識のない人を見つけたら、まずは119番に電話して救急車を呼ぶ!
亡くなったことが判明したら死亡診断書等を取得し、葬儀社に連絡!
※東日本大震災の時は、特例で一時的に墓地以外の場所で市町村が指定場所に遺体を火葬せずに埋葬しておりました。
2 お金が無い方への葬式に関わる支援制度
亡くなった家族や同居者の葬式をどうするか、お金が無くて困っている人は、
まずは市区町村の福祉事務所にいきましょう。
福祉事務所に行くタイミングとしては
葬式をあげる前に、出来るだけ早く行きます。
福祉事務所がどこか分からない時には、市区町村の役場に行って聞いてみると良いでしょう。
最近では、葬儀社の方でも支援制度を知っている所がほとんどですから、遠慮なく聞いてみるとよいでしょう。
福祉事務所に行って
葬祭扶助(そうさいふじょ)の申請をしたい
と申し出ます。
申請が通り、お金が下りるかどうかは分かりません。
亡くなった方の遺族や扶養義務者の収入や資産の審査があるからです。
以下に簡単に葬祭扶助について説明します。また国民健康保険等の葬祭費についても紹介します。
(1)葬祭扶助(そうさいふじょ)
亡くなった方の遺族や扶養義務者が、生活に困っている状況の場合に、葬祭にかかる費用を支給してくれる制度です。
この制度は生活保護法に基づくものですが、この葬祭扶助だけを申請することも可能です。
葬祭扶助の申請のタイミング
葬祭扶助の申請は、葬儀の前に行います。
葬儀が終わると同時に葬儀費用が確定してしまうので、その後で申請しても受け付けてくれません。
ただ、後述するように葬祭扶助が求める最も簡素な直葬は、火葬でもって終了します。
ということは、葬祭扶助の申請は、葬儀と火葬の両方を済ませる前の段階にする必要があります。
ですから、市区町村には前もって「葬式をあげるお金がない」ということを相談しておくことがおススメです。あるいは、死亡届を提出する時に、ついでに相談すると良いでしょう。
葬祭扶助の基準額
遺族の居住地によって支給される基準額が変わります。
級地※ | 大人の場合の基準額 |
1級地または2級地 | 212,000円以内 |
3級地 | 185,500円以内 |
ただ、やむを得ない事情により基準額を超える金額については、若干は認められることもあるようですから、遠慮なく福祉事務所等に相談されると良いかと思います。
※級地というのは地域の生活様式や物価によって市区町村ごとに指定されています。例えば仙台市は1級地で、角田市は3級地です。
葬祭扶助で支給される費用
葬祭扶助で支給される費用は、次のものであることが生活保護法で定められています。
一 検案
二 死体の運搬
三 火葬又は埋葬
四 納骨その他葬祭のために必要なもの
以上から、おおむね火葬して遺骨を引取るところまでにかかる費用で最低限度必要な額は葬祭扶助で支給されると思われます。
ただ、お葬式については、いわゆる「直葬」にかかる費用しか支給されません。
また、生活保護法の「納骨」というのは骨壺に遺骨を納めるための費用であって、お墓に遺骨を納める意味ではありません。
※直葬とは・・・
一般的に行われている通夜・告別式を行わずに、火葬のみを行う葬式のこと。火葬式とも言います。
火葬場で僧侶に度胸してもらうこともあります。
直葬の相場は約36万円位と言われています。
この相場は、遺体の搬送・安置・火葬等の一切の費用を含んでいるので、死亡診断書作成料を除いた葬式費用の最低額と考えても良いかと思います。
葬祭扶助を支給される人
葬祭扶助を支給されるのは、次の2パターンの内のどちらかの人です。
A : 亡くなった方の遺族 または 扶養義務者で 、葬式を行う生活に困っている人
B : 亡くなった方が生活保護を受けていた か 亡くなった方が遺した金品では葬祭費に足りない場合で、 亡くなった方の扶養義務者で葬祭を行う人がいない時に 葬祭を行った人
AとBでは申請する時に必要な書類が異なります。
「葬式をする必要があるけどお金が無い」と言う方は、まずは市区町村の窓口に相談してみてください。
※扶養義務者とは・・・
民法では扶養義務者として
直系血族と兄弟姉妹、配偶者
を挙げています。
直系血族と言うのは、祖父母・親・子・孫の関係です。家系図を書いたときに真上や真下に位置する人たちです。養子や養親も含まれます。
ただし、民法877条第2項で「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。」と規定してます。
三親等内の親族というと、亡くなった方から見ると叔父・叔母・甥・姪も入ります。
(2)葬祭費(または埋葬料)
国民健康保険・後期高齢者医療保険の被保険者(保険の対象になる人)が亡くなった時、喪主(あるいは葬式を行った人)に5万円が支給されます。
市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療保険の担当部署に相談してください。
なお、企業の健康保険の被保険者が亡くなった時には、埋葬料が支払われます。こちらは企業か年金事務所に問合わせしてみてください。
また、葬祭扶助を受ける場合は、直葬が条件になったりしますが、直葬の場合には葬祭費が受取れない可能性があります。
つまり葬祭扶助と葬祭費の両方を受取れるかどうかは微妙な問題ですので、必ずお葬式をあげる前に市区町村に確認してください。
3.お葬式にまつわる、その他の困りごと
葬式をどうするか?と
(1) お葬式は、絶対にやらなければならないのか?
お葬式というのは宗教や慣習に関わる事なので、法律で規定できるものではないと思います。
ですから、お葬式をやるかやらないかは、遺族が決めれば良い事ではあります。
「葬式をあげないと親戚や近隣の人から何を言われるかわからない」あるいは「質素な葬式だと悪口を言われる」等の心配をされる方もおります。
市区町村の役場や年金事務所などの役場には、死亡の事実を届け出たりする必要はあります。
でも世間の人に死亡のお知らせをする義務はありません。私の子供の頃には割と一般的だった死亡広告も、最近ではめっきり減りました。
また新型コロナの感染予防のため「葬儀は家族だけで行いました」というハガキも、当たり前のように目にするようになっています。
葬儀社にとっては難しい世の中になりつつあるのかもしれませんが、人々の葬式への意識は確実に変わってきていると思います。
(2) 遺骨はお墓に入れなければならないのか?
火葬した後の遺骨をどうするか?
お金がかからないのは、遺骨を自宅で供養することです。(ただし、遺骨を自宅の庭に埋めたりしてはいけません。)
きちんと供養できているならば、自宅に遺骨を保管しておくことは可能です。
※供養していると認められない場合には、刑法上の罪に問われるかもしれません。
ただし、何年も自宅で供養することを私は勧めません。何年か何十年か先、その家を継ぐ人や遺骨を管理する人が誰もいなくなった時のことを考えてしまうからです。
墓地に納骨する場合は、それなりのお金がかかります。
市町村営の霊園で合葬墓に永代供養するのが最も安上がりかもしれません。その他に適切な方法で実施している宗教法人やNPOなどによる散骨も選択肢になり得ます。
つまり、昔からの「お墓に納骨」という考え方にとらわれなければ、様々な方法が考えられるのです。
ですから、まずは「いろんな人に相談する」ということが大切なのです。
(3) 情報が必要な人に届かない!
角田市・山元町の事件もそうですが、今回紹介しているような情報が必要な人に届かないという問題があります。
おそらく色々な社会問題にも同じ課題があり、市区町村の職員の方々も困っておられることと思います。
特に、こうした生活に困っている人への情報は届きにくい。
なぜなら、おそらくはインターネットはもちろん、新聞も目にできないからです。市区町村が発行している広報誌も見落としている可能性もあります。
孤立している人は、他人への警戒感も強いような気がします。それも情報が届きにくい原因の1つではないでしょうか?
だから、近隣で様子がおかしい人や家庭があったなら、市区町村等に連絡をするか、自分から声をかけてみるのが大切かもしれません。
あるいは最近では「加入義務はない」という面が言われている町内会の意義を、見直す時期かもしれません。(これは単なる感想ですが・・・)