親事業者と下請事業者の契約~下請代金支払遅延等防止法

カフェで仕事・勉強をしている男性のイラスト

 事業として販売したり製造したり修理したりする会社が、その仕事の全部または一部を下請事業者やフリーランス(以下、下請事業者と記します)に依頼することがあります。

 一般的に下請事業者は資金力や営業力の面で親事業者(元請)より劣ることから、依頼内容をよく確認せず、一方的に不利な条件で契約をすることがあります。

 下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法と記します)は、親事業者と下請事業者の公正な取引を目指している法律です。

 以下に、下請法が適用されるケースを示します。

下請法が求める契約内容を示す書面については、別ページ「フリーランス・個人事業の契約の記録」を御覧ください。

なお、下請法が当てはまらない取引関係でも、独占禁止法著作権法等の他の法律に関わることがあるのでご注意ください。

なお、下請法について詳しくは公正取引委員会のホームページを御覧ください。

下請法:公正取引委員会 (jftc.go.jp)

独占禁止法:公正取引委員会 (jftc.go.jp)

各種パンフレット:公正取引委員会 (jftc.go.jp)

1.下請法が適用されるケース

まず、「(1)適用される事業」のいずれかに当てはまること。

その上で、親事業者(元請)と下請事業者の関係が(2)の事業規模のいずれかのパターンであることです。

(1) 適用される事業

法律で書かれている定義は非常にわかりづらいので、大雑把にまとめてみます。

しかし、正しくは必ず条文や公正取引委員会のウエブサイトで確認してください。

★建設業の場合には、建設業法が適用されます。ただし、建設資材の販売や設計図などには下請法が該当することもあります。

A 製造委託

下請法が適用される製造委託は、以下の4つの類型があります。

類型
販売する商品やその部品、原材料、それらを作るための金型の製造を委託する

・スーパーのプライベートブランドの食品の製造を委託

・家具の組立に使用するネジの製造を委託

製造業の事業者が製品や部品、原材料、それらを作るための金型の製造を委託する

・機械製造業者が、製品の機械の部品の製造を委託

・衣料品を作る事業者が、それに使う布地の製造を委託

修理を行う事業者が、その仕事に使う部品や原材料などの製造を委託する 工作機械製造業者が、自社の機械を修理する部品の製造を委託
  事業者がその使用し又は消費する物品の製造を業として行う場合にその物品若しくはその半製品, 部品, 附属品若しくは原材料又はこれらの製造に用いる金型の製造を他の事業者に委託すること

・工作機器製造業者が, 自社の工場で使用する工具を自社で製造している場合に, 一部の工具の製造を他の工作機械製造業者に委託

B 修理委託

修理委託には、次の2つの類型があります。

類型
 事業者が業として請け負う物品の修理の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する

 自動車ディーラーが, 請け負う自動車修理を修理業者に委託

事業者がその使用する物品の修理を業として行う場合にその修理の行為の一部を他の事業者に委託する

製造業者が, 自社の工場で使用している工具の修理を自社で行つている場合に, その修理の一部を修理業者に委託

C 情報成果物作成委託

情報成果物作成委託は、次の3つの類型があります。

類型
事業者が業として行う提供の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
  • ソフトウェア開発業者が, 消費者に販売するゲームソフトのプログラムの作成を他のソフトウェア開発業者に委託
  • 放送事業者が, 放送するテレビ番組の制作を番組制作業者に委託
  • パッケーンソフトウェア販売業者が, 販売するソフトウェアの内容に係る企画書の作成を他のソフトウェア業者に委託
  • 家電製品製造業者が, 消費者に販売する家電製品の取扱説明書の内容の作成を他の事業者に委託
事業者が業として請け負う作成の目的たる情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
  • 広告会社が, 広告主から制作を請け負うテレビCMを広告制作業者に委託
  • デザイン業者が, 作成を請け負うポスターデザインの一部の作成を他のデザイン業者に委託
  •  テレビ番組制作業者が, 制作を請け負うテレビ番組のBGM等の音響データの制作を他の音響制作業者に委託すること
  • テレビ番組制作業者が, 制作を請け負うテレビ番組に係る脚本の作成を脚本家に委託
  • アニメーション制作業者が, 製作委員会から制作を請け負うアニメーションの原画の作成を個人のアニメーターに委託
  • 建設業者が, 施主から作成を請け負う建築設計図面の作成を建築設計業者に委託すること
事業者がその使用する情報成果物の作成を業として行う場合にその情報成果物の作成の行為の全部又は一部を他の事業者に委託する
  •  事務用ソフトウェア開発業者が, 自社で使用する会計用ソフトウェアの一部の開発を他のソフトウェア開発業者に委託
  • デザイン業者が, コンぺ (試作競技) に参加するに当たり, デザインの作成を他のデザイン業者に委託

※情報成果物 って何?

「情報成果物」って何だか小難しい感じがしますが、次の3つの類型に該当するものを言います。

 

類型 具体例
プログラム ゲームソフト、会計ソフト、顧客管理システム等
影像又は音声その他の音響により構成されるもの テレビ・ラジオ番組、CM、映画、アニメ等
文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

設計図、ポスター、商品デザイン、広告等

D 役務提供委託

※役務を「えきむ」と読みます。

役務提供委託とは、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を他の事業者に委託することを言います。

<具体例>

  • 貨物自動車運送業者が, 請け負つた貨物運送のうちの一部の経路における運送を他の貨物自動車運送業者に委託
  • 貨物自動車運送業者が, 貨物運送に併せて請け負つた梱包を梱包業者に委託
  • 貨物利用運送事業者が, 請け負つた貨物運送のうちの一部を他の運送事業者に委託
  • 旅客自動車運送業者が, 請け負つた旅客運送を他の運送事業者に委託
  • 自動車ディーラーが, 請け負う自動車整備の一部を自動車整備業者に委託
  • ビルメンテナンス業者が, 請け負うメンテナンスの一部たるビルの警備を警備業者に委託すること
  • 広告会社が, 広告主から請け負つた商品の総合的な販売・促進業務の一部の行為である商品の店頭配布をイぺント会社に委託
  • 冠婚一要祭事業者が, 消費者から請け負う冠婚一要祭式の施行に係る司会進行, 美容着付け等を他の事業者に委託
  • 旅行業者が,旅行者から請け負う宿泊施設,交通機関等の手配を他の事業者に委託すること

(2) 適用される親事業者と下請事業者の事業規模と委託業務

詳しくは下請法の2条第7号に規定されていますが、親事業者と下請事業者の事業規模と委託業務の関係は下の表のとおりです。

大雑把にまとめると、次のように言えるかもしれません。

資本金の額等が1,000万円を超える法人事業者が、それより小さな法人事業者や個人業務委託をする場合には、『下請法の適用がある』と考えておく

  親事業者※1

左欄の親事業者が右欄の下請事業者に委託する業務

下請事業者

資本金の額等が3億円を超える法人事業者

※2

製造委託等

ただし、情報成果物作成委託・役務委託は※3に限る

個人又は資本金の額等が3億円以下の法人事業者

資本金の額等が千万円を超え3億円以下の法人事業者

製造委託等

ただし、情報成果物作成委託・役務委託は※3に限る

個人又は資本金の額等が千万円以下の法人事業者
資本金の額等が5千万円を超える法人事業者

情報成果物作成委託

又は 

役務提供委託

ただし、※3は除く

個人又は資本金の額等が5千万円以下の法人事業者
資本金の額等が千万円を超え5千万円以下の法人事業者

情報成果物作成委託

又は 

役務提供委託

ただし、※3は除く

個人又は資本金の額等が千万円以下の法人事業者

※1 地方公共団体を除きます。

※2 「資本金の額等」とは「資本金の額又は出資の総額」のことです。

※3 情報成果物作成委託にあっては、プログラムに限ります。役務提供委託にあっては、①運送②物品の倉庫における保管③情報処理に係るもの

2 下請法が適用される場合の親事業者の義務

下請法が適用される場合には、親事業者にはいくつかの義務が課せられます。

(1)書類等の作成、交付及び保存の義務

親事業者には委託する業務の内容や、下請代金額と支払方法などを、書面に記して下請事業者に交付する義務があります。

※この書面を3条書面と言います。

書面に記す内容については、フリーランス・個人事業の契約の記録を御覧ください。

また親事業者にこの書面に加えて、下請事業者に依頼した物や作業の完了の報告を受けた場合には受領の記録も保存しておく必要があります。

これに違反した場合には、50万円以下の罰金を科せられます。

(2)下請代金の支払期日

親事業者が下請事業者に対して、依頼したものを受領してから60日以内で、かつ、できるだけ早期に下請代金を支払わなければなりません。

これは受け取った物の完了検査をするかどうかに関わらず、60日以内に支払う必要があります。

3 親事業者の禁止行為

親事業者は下請事業者との取引で、大きく分けて8つの禁止行為があります。

(1)受領拒否

禁止されている受領拒否は、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の受領を拒むこと」です。

給付の受領」とは・・・

・製造委託や修理委託の時には、親事業者が下請事業者から委託した物を受取り、自分の占有下に置くことです。

・情報成果物の作成委託の場合で記録媒体が無い時には、親事業者の支配下におくことで、例えば、親事業者のパソコンに保存したときを給付の受領と言います。

受領拒否にならないケース

次の1または2の場合に限って、親事業者は、「下請事業者の責に帰すべき理由がある」として、受領を拒否できます。

  1. 委託した時に下請事業者に渡した書面(3条書面と言います)に記してある委託内容と異なる場合又は給付に瑕疵がある場合
  2. 3条書面に明記されている納期に給付が行われない場合

つまり、そもそも親事業者が下請事業者に対して依頼内容等を記した3条書面を交付していなければ、受領を拒否できないルールです。

(2)支払遅延

支払遅延とは、「下請代金を支払期日の経過後なお支払わないこと」を言います。

親事業者には給付を受領した日から起算して60日の期限内で、できる限り短い期間内に支払日を決めておく義務があります。

注意しなければならないのは、親事業者の社内規定や取引規定等の如何に関わらず、「受領した日から起算して60日以内」に支払わなければ支払遅延になることです。

(3)下請代金の減額

下請代金の減額とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること」を言います。

下請代金の減額には、次のようなことも含まれます。

  • 消費税相当分を支払わないこと。
  • 下請代金はそのままにして、数量を増加させて納品をさせること。
  • あらかじめ書面で合意することなく、下請代金を銀行口座に振り込む際に振込手数料を下請事業者の負担にすること(振込手数料を差し引いて振込むこと)。

減額が認められるケース

(1)の受領拒否ができる場合や、(4)の返品を適切に行った場合等の限られたケースでのみ減額が認められます。

(4)返品

返品とは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付を受領した後、下請事業者にその給付に係る物を引取らせること」を言います。

返品が認められるケース

3条書面に明記された委託内容と異なる場合や給付に瑕疵がある場合に、受領後すみやかに引き取らせる場合などに限定されています。

なお、3条書面を交付していない場合はもちろん、検品の基準を勝手に厳しくして「瑕疵がある」とした場合には返品は認められません。

(5)買いたたき

買いたたきとは、「下請事業者の給付内容と同種又は類似の内容の給付に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を下請代金として不当に定めること」を言います。

例えば、次のような場合には買いたたきと見なされる可能性があります。

  • 大量発注を前提として見積もりを出させて、その単価で少量の発注をした場合。
  • 親事業者の予算を基準として、一方的に下請代金の額を相場より低い額で決定した場合。
  • 短い納期で発注する場合に、下請事業者のコスト増を考慮せずに下請代金を決定した場合。

(6)購入・利用強制

 購入・利用強制とは、「正当な理由がある場合を除き、親事業者が指定する物を強制的に購入させ、又は役務を強制して利用させることにより、下請事業者にその対価を負担させること」を言います。

 例えば、親事業者の販売促進キャンペーン に下請事業者に協力させて商品を購入させることなどが含まれると思います。

(7)不当な経済上の利益の提供要請

 不当な経済上の利益の提供要請とは、「親事業者のために金銭、役務その他の経済上の利益を下請事業者に提供させることにより、下請事業者の利益を不当に害すること」を言います。

 金銭等の経済上の利益には、協力金とか協賛金など名目のいかんを問いません。例えば親事業者の製品カタログ製作のための協賛金を提供させることなども、これに該当する可能性があります。

 あるいは、親事業者の倉庫への積み下ろし作業を、下請事業者に委託取引とは関係なしに行わせることも該当します。

 大規模小売業者の店舗営業の手伝いに、下請事業者の従業員を派遣させることも下請契約の内容いかんによっては不当な経済上の利益提供に問われるでしょう。

(8)不当な給付内容の変更及び不当なやり直し

 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しとは、「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の給付の内容を変更させ、又は受領後にやり直させることにより、下請事業者の利益を不当に害すること」を言います。

 仮にやり直しにかかる費用を親事業者が負担するならば、「下請事業者の利益を不当に害すること」には当たらないので問題にはならないかと思います。

 一方で、例えば発注者から親事業者が請負った業務の一部を、下請事業者に委託していた場合に、発注者が契約を取り消した時点で既に下請事業者がアルバイトを手配していたり材料等を仕入れていたその費用負担が問題になります。親事業者が、費用を負担しないとすると不当な給付内容の変更に当たる可能性があります。