東日本大震災 大川小裁判 判決文再読

東日本大震災後の判決文から学ぶべき点を防災マニュアルに反映し、こうした悲劇を防ぐ。

そういう意図で、日和幼稚園、野蒜小学校、大川小学校の3つの事件について読みなおし作業を続けていますが、正直言って、しんどい。

大川小学校の件は、現在、最高裁判所に上告中なので、裁判上の結論は確定していません。

けれど、原審(地裁)、控訴審(高裁)の判断部分からは今後に活かしていかなければならない点が指摘されているので、それについてまとめてみます。

原審の判断理由

簡単に言えば、原審が指摘していることは、つぎのようになると思います。

①事前に津波を予見できなかったとしても、市の広報車が津波が沿岸部の松林を超えたことを伝えた時点で、津波の危険を予見できた。

②その時点で、裏山に逃げるときに児童がケガをするリスクよりも、その場に留まり、あるいは裏山より標高が低く北上川に近い三角地帯に逃げて命を落とすリスクの方を回避すべきだった。つまり、ケガ人が出たとしても裏山に逃げるべきだった。

③避難してきた地域住民の中には高齢者もいたが、学校がまず責任を負うべきは児童の安全確保である。

④緊急時なのだから、整然と規律ある避難行動に拘ることはなく、各自、全力で避難させるべきだ。

控訴審の判断理由

原審が、危機管理マニュアルを改訂すべき注意義務を認めなかったのに対し、控訴審は危機管理マニュアルをリスクに合わせて策定することが、結果回避に重要だったとしています。

①様々な法律整備や危機管理マニュアル策定における注意事項等の研修や会議、自然災害に関わる報道、その他から津波リスクを想定することができた。(現に校長や教頭、教務主任には津波を想定していると思われる言動があった)

②その時点で危機管理マニュアルを、想定されるリスクに対応できるように改訂する義務があった(校長が職員会議で指示していたけど、していなかった)

③危機管理マニュアルを策定したならば、それに基づいた訓練等の準備をすべきであった。

④避難場所、避難経路、避難方法その他を具体的に検討する中で、施設・設備に不備があるならば、校長は教育委員会に通知し、何らかの措置を求めるべきであった。

⑤危機管理マニュアルに、災害時に児童を保護者に引き渡す方法を明記するため保護者と事前に協議し、それを実現するための引渡カード・引渡し児童名簿等の整備や訓練をしておくべきだった。これは、「小規模校だから教員が保護者の顔を知っているため、そのような措置は不要」となるようなものではない。

⑥地域住民と、リスクや避難場所、避難経路、避難方法について事前に協議しておくべきだった。特に想定されるリスクについては、「これまではなかったから大丈夫」という住民の認識が、研修や報道その他で得た情報と照らしてそぐわないものであるならば、それを改めるように説得すべきである。

⑦上記①から⑥を行っていないならば、安全確保の義務違反にあたる。

つまり、危機管理マニュアルの策定と校内外への周知、それに基づいた訓練。また、新たにリスクを認知したら、それに応じてマニュアルを見直し、実行可能な条件を整えていく。

私たちがすべきなのは、まず控訴審判決が指摘しているように危機管理マニュアル(あるいは防災計画等)を徹底的に見直し、訓練すること。その上で、残念ながら想定外の出来事が起きてしまったら、原審判決のように、命を守る行動を速やかに全力でする。

言われてみれば、当たり前のことのようにも思いますが、でも当たり前のことをやり切っている所は案外少ないかもしれません。

※2019年10月10日に最高裁判所は被告(石巻市、宮城県)の上告を棄却しました。この結果、高等裁判所判決が確定します。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です