高齢者等向けの避難保険

今朝のNHKのニュースで、あいおいニッセイ同和損保が、災害の際の避難行動を後押しする保険の設計を検討し始めたと報じました。

豪雨などで避難情報が出た時に、タクシーやバス会社が、高齢者の自宅に迎えに行って安全な場所まで避難させると、その費用が保険金として支払われる仕組みを想定しているそうです。

もともとは県立広島大学の江戸克栄教授が「西日本豪雨で多くの住民が逃げ遅れて犠牲になったことから、早く逃げてもらう仕組みをつくりたいと考えて」提案したものだそうです。

<参考 >    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190925/k10012097641000.html   

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190705/k10011983201000.html

たしかに、歩行に困難さがあり、車などで避難を助けてくれる身内や近隣住民がいない高齢者や障がい者(以下、高齢者等)にとっては、検討に値する仕組みかもしれません。また、遠方に住むその高齢者等の家族にとっても、安心できる仕組みの1つとなるでしょう。

でも、いくつか課題があると私は思います。

1. タクシーやバスの運転手やその補助者の安全確保は?

災害発生時に、住民の避難を支援している消防署員、消防団、警官、地域住民等が被災してしまう事態が度々発生しています。こうした方々は、何人もの人や、何件もの家を回るために、その間に自身の避難が遅れてしまうのかもしれません。そうした事態が、この制度を支えるタクシーやバスの運転手やその補助者にも起こるのではないでしょうか?

この保険で高齢者等を迎えに行くタクシー等は、避難準備情報などの避難を促す発令を契機に待機していた場所から迎えに行くことになるかもしれません。

けれども、もともと迅速だったり自立的に行動することが難しいから支援が必要な方々なのだから、タクシー等が到着してから出発できるまでに相当な時間がかかることが予想されます。

つまり、迎えに行くタイミングによっては、タクシー等の運転手や補助者が被災する危険が高いのではないかと思うのです。

記録的短時間豪雨の場合は、運転手等の安全確保を考えれば迎えに行くことそのものを控えなければならないのではないでしょうか。

※高齢者等の心身の状況によっては、運転手だけではなく、その方の避難・乗車・降車等の支援をする補助者が必要になると思います。看護師や介護関係の有資格者などが補助者として同乗するのでしょうか?

2. どのタイミングで高齢者等を迎えに行くと、保険金が支払われるのか?

上記の通り、タクシー等が高齢者等の避難支援のために迎えに行くには、かなり早い段階で避難してもらわなければならないと思います。

けれど、あまりにも早すぎると避難所が開設されていないことだってあるかもしれません。

そうした場合、日常生活でのタクシー利用と、災害時の避難行動としての利用(保険が適用するケース)との区別をどのようにつけるのでしょうか?

場合によっては、本人やタクシー等の会社の見解と、保険会社との見解が食い違い保険金が支払われないということだって考えておかなければなりません。

保険金を保険会社に申請するには、申請書類の他に、それが「避難のための利用だった」ということを証明する書類も必要になると思います。

その証明書類は、どのような物が必要で、誰が準備し作成するのでしょうか?

また、対象となる災害は何でしょうか?

豪雨、台風だけでしょうか?津波も入るのでしょうか?原発事故には対応するのでしょうか?

どの災害の時にタクシー等が迎えに来て、どの災害の時は来ないのか。その線引きを高齢者等は理解し、記憶できるのでしょうか?

3. 自分が頼んでもいないタクシーやバスに乗車できるのか?

ニュースによると、高齢者等の本人やその場に一緒にいる者から要請がなくても、自動的にタクシー等が避難のための迎えに行く体制が検討されているようです。

でも、もともと避難する気持ちが薄い人が、自分が頼んでもいないタクシー等に乗車する気持ちになるものなのでしょうか?

もしその運転手や補助者に面識がなかったら?

認知症や自閉症の方々であれば、さらに乗車してもらうのは困難になると思います。(もっとも、こうした方々であれば同居している親族がおられる可能性が高いとは思いますが)

乗車を拒否されたり、かなりの長時間になりそうな時、タクシー等の運転手はどうすればいいのでしょうか?「拒否されたから帰ります」と言うことができるのでしょうか?迎えに行ったけど拒否されたために帰った場合、その費用は保険金から支払われるのでしょうか?それとも、避難完了まで粘らなければならないのでしょうか(命をかけて)?

緊急時に迎えに行ったタクシーにスムーズに乗っていただくためには、日頃の訓練が大切かと思います。では、その訓練は誰が主導して行うのか?その費用は保険で賄われるのか?その訓練で迎えに行った運転手や補助者と同じ人が、災害時にも迎えに来てくれるのか?

4. 誰が保険の契約者なのか?被保険者(対象の高齢者等)には何か条件がつくのか?

地震保険は火災保険に付帯させる以外に加入することはできません。これと同じように、この避難保険は他の保険の特約とするのでしょうか?そうすると、その場合の被保険者は、対象の高齢者等以外の者も含まれるかもしれませんが、その範囲はどうするのか?

何かの特約ではなく、単独で加入できる保険にするとき、被保険者とする人には年齢や障がい等の条件がつくのでしょうか?条件がつくとすれば、その条件に当てはまらない、その場に同席している人は、タクシー等に同乗して避難することができるのでしょうか?

あるいは、タクシー等で避難する際、近隣住民が同乗させてくれと懇願された時(逆に被保険者が同乗させたいと言った時)、同乗させることはできるのでしょうか?

5. 避難時の道路の渋滞に巻き込まれるのではないか?

津波から避難する際に、高台が遠方にある平野などでは車での避難をせざるを得ないこともあります。そうした場所では、避難訓練でも車を使い、どこでどれくらいの渋滞が起きるのかを調べたり、様々な対策を施していると聞いています。

この保険で契約されるタクシーやバスも、こうした地域の避難訓練に参加するのでしょうか?

もし訓練に参加しない災害時だけの対応になる場合、地域全体の避難行動に影響を与えることはないのでしょうか?

6. このサービスが充実すればするほど、避難行動が遅れるのでは?

記憶力などに問題がなく「避難が必要な時には、こちらから連絡しなくてもタクシーが迎えに来る」ということを理解していた方がいたとします。

こうした方は「雨脚が強くなってきたけれど、タクシーが来ないから避難しなくても大丈夫だ」と、考えたりしないでしょうか?

天気予報で大雨警報が発令されたから、避難する準備を整えて、タクシーが来るのをひたすら待っている高齢者等はいないでしょうか?

待っていれば保険金でタクシー代が支払われるのに、心配だから自腹を切ってタクシーを呼んで早めに避難する方がどのくらいいるでしょうか?(だったら、保険をかけるよりも、何かあった時にタクシーで避難する習慣をつけた方が、費用も安くすむ?)

そして何らかの事情でタクシーは来ない・・・。

このニュースに接してからザっと考えただけで、上記のような課題が、私にすれば解決が困難な課題ばかりが並んでしまいます。

避難行動要支援者へのサポートはとても重要な課題だと思います。ですから様々な人や機関が、いろいろなアイディアを出し合い検討することは大切なんだとも思います。

だから、もし、この避難保険が上記の諸課題をクリアーし実現出来たら、避難行動を後押しする1つの選択肢になるので、とてもいいなと思います。

でも、上記の課題をもう一度眺めてみると、クリアーは困難だし、適した利用者は限定的かもしれないし、他にやるべきことがあるようにも思えます。

  • その時に自分がいる場の近隣の人と声を掛け合って、早めに避難する。
  • そのために、近隣の人と顔なじみになっておく。
  • その場所にどういうリスクがあるのか、時々は確認する。
  • 避難が必要な場所に住んでいる(または働いている、学んでいる)場合、災害ごとの避難場所と避難経路を確認し、たまに歩いてみる。
  • 歩いて避難することが困難な場合の避難方法を準備しておく。
  • 心配な天気予報の場合は、避難の準備と、周囲への連絡、超早めの避難を実践し、習慣にしてしまう。

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