高齢者・障がい者施設のBCP

台風19号関連の報道が積み重なり、当時の避難行動や復旧活動の様子や課題が少しずつ明らかになってきました。

前に、高齢者の避難についての難しさを投稿しましたが、高齢者や障がい者が入所(および通所)している施設でのBCP作成の必要性と難しさを、一連の報道を見ながら感じている次第です。

東日本大震災や2016年の台風10号による岩手県岩泉町の高齢者施設の悲劇を教訓に避難計画や訓練を積み重ねた成果だと思いますが、入所者・利用者に人的被害が出ていないことは(私の記憶ではなかったと思います)、とても良かったなと思います。

でも、例えば福島県では緊急に招集された病院職員が病院外で亡くなる事件がありました。何がこの方々に起きたのかは不明ですが、災害時の職員の安全確保はやはり重要課題の1つです。

また、浸水ギリギリのタイミングで避難完了するなど、綱渡りの避難行動だったところもあったようです。

最初に避難した場所で落ち着けず、2度3度と避難を余儀なくされたケースもありました。高齢者や障がい者の場合、「リロケーション・ダメージ」という転居回数の増加が不眠等の症状を引き起こすなどの心身への影響が大きいので、できれば再避難は避けたいところです。

そうしたことを踏まえ、これから各施設で防災計画等の見直しが進められると思います。そこで、私も私自身のメモとして、見直しポイントをまとめておこうと思います。

1.ハザードマップの見直し

入所施設においては施設の敷地についてのリスク、通所施設においては施設だけでなく利用者の送迎ルートも含めた災害リスクを、市町村等が出しているハザードマップで確認済みのことと思います。

ただ、今回の台風で明らかになったのは「中小河川が氾濫した場合の浸水想定区域が設定されていない所が多い」ということです。そして、氾濫した。

つまり、周知のことですが「ハザードマップ作成の前提に当てはまらない災害は起きうる」ということが、再度確認されたのです。

だから、まずハザードマップの浸水域や浸水継続時間を再確認します。その上で、ハザードマップの前提を超える事態が起こることを覚悟し、それに備えることが大切です。

例えば、浸水域から外れていてもそこに近いとか、浸水域の標高と施設敷地の標高差があまりないとか、河川ではないけど用水路が近くにあるとか。土砂災害危険区域に指定されていないけど、崖が近くにあったり、施設の敷地が崩れ落ちるかもしれないとか。

そうした場所は、浸水・土砂災害への備えを考えた方が良さそうです。

2.連携施設、協力団体等の確保

高齢者や障がい者は何らかのケアを継続する必要が高いので、他の場所に避難するなら、できれば同様の施設に避難する方が望ましいし、そうした施設がなくて他の住民と同じ体育館等に避難しなければならないなら、せめてケアに欠かせない機器や物資等の提供を受けたい。だから、事前に他の施設と相互協力の協定を結んでおくことも大切だと思います(現実には難しいことも多々あると思うので、自治体の役割が大きいかとも思います)。

また、事前避難や災害が落ち着いたころの移動や復旧作業にあたっては、到底、職員だけでは回らないと思います。でも一方で、一日も早く通常業務に戻るのは、入所者・利用者のケア確保に留まらない社会的な要請でもあると私は考えます。

かと言って、ボランティアは実際に来てくれるのかどうか不確定だから、はじめからそれを期待することはやめた方が良い。

だから、入所者の移動や復旧活動に協力していただける団体・個人を、あらかじめ確保しておくことも必要な防災活動になるのではないでしょうか。

市区町村はもちろん、消防団、タクシーやバスの旅客運送関係、近隣の学校・大学、商工会・町内会等と協議してみることも大切かもしれません。

3.避難行動開始のタイミングのマニュアル化(通所施設の場合は、休業または活動中断の判断のタイミング)

例えば「『避難準備情報』の発令を契機に建物2階に避難行動を開始する」という垂直避難のマニュアルがあったとします。

もしこの避難準備情報が夜間に発令されたらどうするか?

埼玉県川越市の施設では、夜中の午前1時ごろに、職員20人以上で120人ほどの入所者の垂直避難を開始し、全員避難するまでに2時間を要したと報じられています。

Yahoo Japan!ニュースからhttps://news.yahoo.co.jp/byline/miyashitakumiko/20191015-00146818/

同様のことが他の施設でも可能なのか?もっと早いタイミングで避難開始するとすれば、どのタイミングで?(水防団待機水位か?氾濫注意情報か?氾濫警戒情報か?)

川越市などを流れる入間川では川越市内の観測所で、12日午後5時ごろ自治体が避難勧告を出す目安とされる「氾濫危険水位」に達しました。(NHK NEWS WEB よりhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20191012/k10012126041000.html)

早いタイミングで避難した場合、その後どのようなリスクが想定されるか?

デイケアなどの通所施設の場合は、利用者が来る前のどのタイミングで、誰が休業を決定するのか?それをどのように、利用者や職員に連絡するのか?

また、利用者を受入れて活動中に急激な天候悪化が予想される場合、どのタイミングで活動を中止し利用者を帰宅させるか?あるいは待機していただくか?その場合、家族への連絡は?

こうしたことは、マニュアル化し、入所者・利用者やその家族や後見人、その他関係各所とも共有しておく必要があります。

4.避難行動開始前の準備活動について

入所者・利用者に避難していただく前に、職員の方々は様々な準備があると思います。

  • 避難場所と避難経路の安全確保
  • 器械・備品等の確認・準備
  • 入所者・利用者の体調等の確認

天候悪化の時、通常の業務に加えて、避難に関わる情報収集や連絡調整と上記の準備も必要になります。

事前にタイムラインの作成と、それに基づいた訓練による行動の習熟を欠くことはできません。

5.備蓄の在り方

垂直避難か、他施設への避難かによって何を、どこに、どのくらい備蓄しておく必要があるのか、その準備は変わってくると思います。

垂直避難の時には、2階以上のフロアーに、備蓄しておく必要があるでしょうし、他施設への避難の場合は輸送に便利な場所に保管しておく方が良いはずです。

上記2で触れた協力関係を結んだ他の施設から物品の支援が期待できる場合は、いつ、どこに運んでもらうのか、その連絡方法は何か?

普段の納入業者とも協議しておくことも必要かもしれません。

6.職員の安全確保

上記3で触れた川越市の施設の場合は、事前に職員に施設内で待機してもらっていたからこそ、入所者を避難させることができたそうです。

災害発生が現実化してきた段階で緊急招集することは危険なので、台風のようにあらかじめ予想できるような場合に施設内で待機していただくことは、職員の身の安全のためにも大切かもしれません。(避難勧告・避難指示発令後の職員招集をするところ、あるいは施設からの帰宅を指示する所はないと思いますが)

災害発生後の復旧段階でも、周囲が冠水していて移動が困難な時など職員の安全が危ぶまれる状況下で出勤させることも、できれば控えたほうが良い

一方で、入所者・利用者のケアや、福祉避難所に指定されている場合には避難してきた高齢者・障がい者のケアも加わるなど、災害時には普段よりも利用のニーズが高くなると予想されます。

だから、災害発生時の職員の安全確保と勤務の在り方を再度見直した方が良いと思います。場合によっては就業規則等の変更もあり得るので、弁護士や社会保険労務士に相談されることを勧めます。

7.業務再開までのロードマップ

一般の事業所は、自身の経営と取引先のために早めに事業再開をする必要がありますが、保育所や医療機関と高齢者・障がい者の入所・通所施設の早期再開は社会的な要請でもあると思います。

この台風19号で浸水した施設が完全復旧するまでの道筋を、調査・研究し、他の施設でそれを利用すべきです。(おそらく、既にそのように動いていらっしゃるかとも思いますが)

  • 何をしなければならなかったか?どのような作業を行ったのか?
  • どこに協力を求めたか?
  • 得られた支援、助成金、補助金は何か?
  • どのような工程で作業を進めたか?
  • どのくらいの期間・費用・労力・資材が必要だったか?
  • 事前に備えておけることは何か?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です